卑怯

 マルクスを無数の石バンバンで攻撃すると、隣にいたフードの奴が身を挺して石の攻撃を受けた。フードが落ちるとカイよりも進行した黒い血管が顔に浮き出た女が現れた。やっぱりゾンビだったし。


「あが、あが、あが」


 女は何かを言おうと首のチョーカーを掻きむしりながら地面へと倒れカクカクと動く。何度も立ち上がろうとしたがそのまま動かなくなった。後ろにいた賊の一人が棒を背中に刺し赤黒い魔石を掬うと、魔石もゾンビの女もボロボロと崩れていった。たぶん死んだのだと思う。特にフードのゾンビ女が誰かは知らなかったが、なんだか敵でないような気がして少し胸がチクりとした。

 地面に横たわる人だった遺体の残りを蹴りながらマルクスが舌打ちをする。


「中途半端な役立たずが」


 見れば、石バンバンが一つだけマルクスの肩に命中していた。ざまぁ。負傷部分を見ながら口角を上げるとマルクスから殺気を感じた。もう何回も感じている殺気なんか無意味だから。


「今度は外さないから」

「はは。ずる賢く俺が話していた間に詠唱してやがったのか……」


 全然そんなことはしていないけど、確かに美徳の話はほぼ聞いていなかった。適当に返事をする。


「そうそう。美徳がなんちゃらの時」

「はは……まったく生意気な小娘だぜ。魔法の情報は間違っていたが、結局はその犬共がいなければただの土魔法を使う冒険者だろ」


 ユキとうどんが歯を見せながら威嚇すると、マルクスがユキたちに向かって何か瓶を投げつける。


「石バンバン」


 石の攻撃を瓶に当てユキたちから逸らしたのはいいが……パリンと音を立て割れた瓶割から辺りにモクモクと白い煙が立った。何これ! 毒? 急いで口をタオルで覆う。


「キャンキャン」


 うどんの苦しそうな声が聞こえたと思ったら急激に目が痛くなる。えぇぇ、これ、最悪じゃん。涙と鼻水が止まらない。痛い痛い。何これ、毒薬激辛煙? 本気で目が痛いって。やばい、視界が完全にふさがれた。目を開けたまま不思議水を顔から被るとだいぶ楽になった。


「キャウーン」


 うどんの鳴き声は聞こえるけど、煙でどこにいるのか判断できない。

 スパキラ剣が再び勝手に動き首元に立つと、鈍い音がした。ああ、もう! また首を狙われた。この煙の中、的確に首を狙っている。向こうからは私が見えてるんだ。まずい、この状況は良くない。なんでどこにいるかバレてるん? 一旦、逃げる?

 ギンが額を指しながら言う。


「頭キラキラだえ~」

「ああ、もう! 馬鹿じゃん」


 ヘッドライトを消し、数歩下がるとユキとうどんの感触が背中にした。ユキもうどんもこの煙の所為で視界が塞がれている。多分、私以上にこの煙が効いているはずだ。二匹の顔に不思議水を掛けると、ユキと目が合う。やばい……これ、すんごくブチ切れてる時の目じゃん。


「ユキ、今は抑えて!」


 二匹とも発光してるから的になるだけだ。一旦、二匹には離れてもらう。あのナイフの攻撃はスパキラ剣だから防げてるだけで……臭覚や視界を塞がれたまま攻撃を何度も受ければ、ユキもうどんも危険だ。


「ユキ! うどん! 下がって!」

「ヴュー」

「大丈夫だから」


 ユキを強く押すと、理解してくれたのかうどんと白い煙の中から走り去って行った。これで手当たり次第攻撃ができる。あんな卑怯な攻撃をユキたちにしやがって……絶対許さない。風の杖で白い煙を切りながら分散させ、辺りの木も一緒に切り落とす。クッ、涙が止まらない。


「カエデ~」


 涙ぐむ私を不安そうにギンが見つめる。身体はなんともない。かなり迷惑な煙ではあるけど、どうやら毒ではなさそう。


「大丈夫、もう痛くないから」

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