美徳

 その中の一人はとても身長が低い。子供? 子供も賊やってんの? どのフードも顔がはっきりと見えない。


「臭いだえ~」

「だれが?」

「フードがみんな臭いだえ~」


 えぇぇ。またゾンビ? もうこれ異世界ホラーじゃん! 

 地面に置いた光の魔石から照らされている光のおかげで中年の冒険者の醜く笑う歪んだ顔は良く見える。汚い顔、やめて。


「ははは。律儀に他の奴らに知らせたのか? 残念だが俺は平等な戦いはしない。今頃全員瀕死だろうな。お前に助けは来ないぜ」

「は? 何を言ってんの?」


 楽しそうに腹を抱えて笑う中年の冒険者……いや、こいつはもう賊だ。


「お前だけが俺のスープを飲まなかったが……他の間抜け共はうまいうまいと食ってたからな。自分たちがどうなるかも知らずにな」

「スープに何か入れたん?」


 男を睨みながら尋ねれば、ヘラヘラと笑いながら口を開く。


「ゆっくり身体の自由を奪う毒だ。今回、この計画を練るのにどれ程の時間が掛かったと思う? それを邪魔されて、俺の美徳に反することをされた仕返しだ。毒はゆっくり回りやがて耳のみが機能する。その耳に聞こえるよう一匹ずつ綺麗に首を斬ってやるよ」

「何それ、めっちゃ趣味悪いし」


 何、こいつ。気持ち悪い。さっきからずっとヘラヘラと笑って……なんだかその楽しそうな顔が妙に癇に障る。スープって、こいつが味噌で作ってたあれか……良かったオジニャンコのアドバス通り食べなくて。

 あれ? でもあのスープだったら吹きこぼれをした時に確か結構な量の不思議水を入れてたじゃん。ナイス、数時間前の私。頷きながら喜んでたら、何を勘違いしたのか中年の冒険者が私を慰め始める。


「ああ、悲しいよな。心配するな。お前にはゆっくり苦しみながら死んでもらうから。お前は死んだとの情報だったからな。今回、生きてると聞いてどれ程に俺が喜んだか分かるか? やっと妹を殺した奴の面を身体から引き千切ることができるぜ」

「妹……? あ、ク、イルゼのこと?」

「気安くその名前を呼ぶなよ。俺はこれでも家族は大切にするので有名なんだぜ。俺の私物に手を出したお前が生きているのは美徳的にもなぁ」

「私物って……それ家族じゃなく物じゃん」

「何が違う?」


 まだ辺りに明るさが残る間にクズ発言をする男の顔をもう一度じっくりと見る。以前、フェルナンドに見せてもらった人相書のクイーンイルゼの兄マルクスとは全然違う顔じゃん。こいつ、本当にマルクスなん? なんか人相書もどこにでもいる顔だったけど……目の前にいる自称マルクスもモブ男だ。


「人相書と顔が全然違うくね?」

「ああ、あれか。俺の美学に反するがお陰様でこうして冒険者の野営にも潜り込むことができる。素晴らしいだろう?」


 美徳美学うるさいって。マルクスならカエデ殺害リストのトップにいるので、遠慮なんかいらない。なんか美徳や私の首をどう斬るか語り出したマルクスに真顔で攻撃する。


「石バンバン」

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