夜中のwakuwakuzokuzoku

 夜中、気配がして目を覚ますとユキの顔が目の前にあった。ちょ、ドアップなんだけど。どうやってテントに入って来たん? 

 時計を見れば、時刻は1時過ぎ。


「ヴュー」

「何か来た?」


 まだ完全に開いていない目を擦りながら、外を見て唸るユキの横でスパキラ剣を持つ。面倒事が来た? 就寝前に感じたユキの様子から何か動きはあると思ったけど、なんで夜中に来るん? 睡眠が足りないんだけど。ユキがこじ開けたジッパー式のテントの入り口から外を確認しようとしたら、目の前にうどん尻があった。


「ちょっ、邪魔」


 ペチンとうどんの尻を叩き移動させ辺りを確認、松明の灯りの下で丁度私兵の一人が大口で欠伸をしていた。襲撃とかではなさそう。何か動物でも外にいた? 仕掛けたアラームは聞こえてないけど、もしかしてユキには何か聞こえたのかもしれない。トイレも行きたいし、テントを出て仕掛けたアラームの周辺を確認しに行く。

 アラームを仕掛けた近くでコソコソと何か人の声が聞こえた。ん? 林の中に誰かいるん? 賊? ヘッドライト消し腰を低くしてゆっくりと声の聞こえる方へ進む。


「――準備……効きはまだな――をやれ」


 眠さもあって注意力の低さから足元の小枝を踏んでパチンと音を立ててしまう。あー、しまった。


「誰だ!」


 低い声と共にすぐに無数の殺気を感じた。頭に付けていたヘッドライトを点ければ、調理をしていた中年の冒険者がそこにいた。ムズムズと背中にいるオハギが動いたような気がしたけど、起きる気配はない。中年の冒険者は、私を見ると急に表情を変え満面の笑みになる。


「ああ、あなたか。黒煙のカエデさん。活躍は冒険者に聞いたよ」

「そんな名前じゃないけど、ここで何してたん?」

「今日の調理のカスを捨てていただけだ。結構な量がでたからな」


 手元にある物を見れば袋を持っているようだけど、こんな夜中にカスを捨てる……絶対嘘じゃん。顔は笑顔だけど殺気がダダ洩れなんだって!


「そうなんだ」

「ああ、カエデ――」


 中年の冒険者の言葉の途中でアラームの缶がカランカランとぶつかる音が聞こえる。同時にスパキラ剣が勝手に鞘から飛び出し顔の前に飛び出すと金属音がした。あ! 今、こいつに何か投げられた!


「危ないし!」

「なんだ。首を斬り落とすつもりでナイフを投げたのだがな」


 スパキラ剣がいなかったら、カエデ終了してたじゃん。スパキラ剣に感謝しながらギュッとグリップを握るとカタカタと闘志を燃やすように揺れる。


「卑怯じゃね?」

「ははは。殺しに卑怯とかないだろ。だが……流石、銀級だけのことはあるな。こちらの情報が間違っていたようだぜ」


 中年の冒険者がやれやれと肩を竦める。サメも私の情報に間違いがあったと言っていたけど、カイからの情報? 考えてみれば人前で石バンバンもスパキラ剣もあまり使っていないのでしらなかったのだろう。石バンバンを使った敵はほとんど死んでるし。


「ユキちゃん、吠えて。ギン、黄色の棒を出して!」


 ユキの遠吠えを肌にピリピリと感じると、棒に巻き付けていた黄色の光の魔石を上空に向ける。集めていた光が木々を抜け空へと写ると辺りが明るくなる。ガークたちへの信号だ。こいつ絶対一人じゃないだろうし、野営の場所にも賊が居るはず。

 案の定、光を放つと林の中に隠れていたフードを被った数人が現れた。

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