お預け
テントをどこに張ろうかとウロウロすれば、炊き出しの調理を始めていた冒険者がいた。結構いい匂いがしたので足を止め鍋の中を見れば、鳥団子のスープを作っていた。でも、それはどう見ても味噌が入っていた。
「これ、何?」
鍋を回す冒険者に声を掛ければ、寒気を感じる。何故だか一瞬、凄い殺気を感じた。
「ああ、みんなに炊き出しと思って」
そう笑顔で答えたのは初めて見る中年の冒険者だった。辺りを見回すが殺気がどこから来たのか分からなかった。賊がまだいるん?
「結構、具材入れて凝ってるんだね。この茶色のスープは何?」
「ああ、料理は俺の趣味なんでね。これは、ガーザの近くの村で手に入れた調味料だ。うまいぞ。一口味見でもしてみるか?」
出されたスプーンに手を伸ばし止まる。
――拾い食いには気を付けよ。
急にオジニャンコの忠告が何度も頭の中でリピートされる。絶対、これ味噌なんだろうけど……やめとこ。
「ううん。大丈夫」
「そうか? そりゃ、残念だな。おお、そうだ。悪いが少し鍋を見ててくれ。調味料の追加が必要だ」
男は強引にお玉を押し付けると、すぐに戻ると何処かへと行った。なんか冒険者にしては腰が低くて違和感がする。なんだろう、この歯の間にゴマが詰まったような感じ。
ぐつぐつと良い匂いがする鍋の中を覗くと吹きこぼれそうなったので不思議水を足し調整をする。間違って結構水を入れたけど味が薄くなってそう……。別に不思議水入れる必要はなかったんだけど、他に水がないし。吹きこぼれたらさっきの男とその話で長居するのが面倒そうだった。戻って来た男の手元あるのは木箱に入った味噌だった。
やっぱり味噌がちゃんとあんじゃん!
ロワーの市場で散々馬鹿にされたのはなんだったん! ちゃんとあるじゃん、味噌。男に入手先を尋ねたかったけど、これ以上会話をしたくない。このずっとニコニコしているのが凄い不気味なんだよね。
「見た目はあれだが味は絶品だ。是非食って――」
「ん? なに?」
男が話の途中で急に止まり、水の魔石のネックレスを驚いたように凝視する。あ、さっき水を足した時に出したままにしてたけど……こいつ、ギラギラと見過ぎじゃね? 視線が気持ち悪いので急いで服の中にネックレスを隠す。何? 狙ってんの?
「ああ。すまんな。綺麗なペンダントで思わず目が行ってしまった。俺も嫁にいつも綺麗な物をせがまれててな、それはどこで買ったんだ?」
「……これは知り合いから預かってるだけ」
「恋人か?」
「違うけど……私、もう行くから。じゃあね」
「お、おう。またな!」
無事に男の元を離れる。なんだか胡散臭い奴だった。冒険者って結局ああいう奴が多い。今まで手に入れたくて探していた味噌だけど、存在さえ確認できればそれでいい。別の方法で入手すればいいだけの話じゃん。
他の冒険者とは少し離れた場所にテントを張り、夕食を作る。今日は疲れたからブラッククローラーと野菜のスープにする。自分へのご褒美だ。ユキとうどんにも肉を与え、キャンプチェアーに座り一人で夕食をとる。
「あー、ブラッククローラー最高」
もうこれの正体がなんだっていいや、美味しいし。
辺りが暗くなり始めると私兵が松明を燃やし、食事が配膳されているのが見えた。冒険者と私兵からは談笑が聞こえ、みんなバッタの脅威から解放されたことを喜んでいるようだった。
時刻は21時。私兵と冒険者が交代で夜番をするというらしい。辺りを確認しに行っていたユキとうどんが戻って来る。
「ユキちゃん、何かいた?」
ユキが考えるようなそぶりを見せる。これはもしかしたら賊の残党がどこかにいるのかもしれない。でもこの広大な場所で賊がどこに隠れているかなんか分からない。近くにいたのならユキも攻撃してただろうし。
「ユキちゃん、何か近くに来たら知らせて」
私は明日早いし、ユキに見張りをお願いする。一応、以前缶で作ったトリップワイヤーアラームを仕掛ける。位置は少し奥の林部分、隠れるのに最適な場所だ。賊もだけど冒険者も信用できない。
「ギンちゃん、お休み」
「お休みだえ~」
ギンに栄養玉を与え、その後、気絶するようにすぐに眠りについた。
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