そこ重要

 ユキのフルスピードのおかげで、未だに辺りの干しバッタの光景に呆然としているガークたちの側まですぐに到着した。ユキから降りガークに両手を振る。


「おーい! ガーク!」


 呼びかけにカッと目を見開き、猛スピードで駆け寄ってきたガークの鼻息が荒い。顔面が近いし怖いんだけど。


「お前! 今までどこにいた! いや、無事でよかった。いや、そうじゃない。このローカストの殲滅はカエデの仕業か? これはどういうことだ」


 ガークに一気にまくしたてられ干乾びたバッタを顔の前でヒラヒラされる。


「それは……私もいろいろ忙しかったし」

「おいこら。今回は誤魔化すんじゃねぇ。あの黒煙はカエデ以外いないだろ。あんな大魔法、あれは一体なんだ!」

「だからマジックだって」


 ガークが拳を上げ、ゆっくり下ろし深呼吸、低い声で尋ねる。


「今までどこにいた。一番奥の竜巻を投打する話はどうなった。フェンリルは見掛けたが、カエデはいなかった。いつの間にローカストの中心にいた?」

「あ、それはちゃんと説明できる」


 ガークにエミルからの手紙を渡す。これならば、私が説明しなくても、私もちゃんと大変だったのだとガークも分かってくれるはず。うん。

 手紙を訝しそうに開封して読み始めたガークの顔がどんどん顔面凶器Xになっていく。あれ? おかしい……なんで?


「ここに記してあるのは全ての事実なのか?」

「たぶん? 手紙にはなんて?」


 エミルは普通に爽やかな顔をして渡してきたけど、ガークは凄い顔面凶器なんだけど。


「冒険者に賊の殺害。私兵の賊を捕縛。殺害された私兵に領主様の使用人の回収――」

「まぁ、大体そんな感じ?」

「まだ続きがある。私兵数人への同時展開魔法での暴行、謎のポーションにて『ぞんび』になった私兵の救済……それから、このエミル殿の服の中を弄って何をした?」


 ちょっとそんな詳細まで書かなくていいじゃん。ガークがまるで変態を見るかのように酸っぱい顔をしてこちらを見る。やめて。


「ただゾンビになったか確認しただけだから」

「その、ぞんびとはなんだ」


 ガークに私兵たちとの一連の流れを話し、変態ではないことを説明する。ガークは、エミルたちと離れる前に私兵の様子がおかしくなったのは知っていたが実際にゾンビ化をその目で目撃していないのでゾンビ部分の話が理解できないようで頭を抱える。


「魔石が体内に入って狂暴化だと……?」

「ゾンビね」


 私のゾンビという単語は完全に無視してガークが少し考え尋ねる。


「賊だった冒険者は誰だ?」

「サ、シャークって冒険者とそのお仲間」

「カイといたあの野郎共か……カイもか?」

「ううん。なんか騙されてただけみたい。アリアは完全に黒だけど」

「そうか。それで、カイは?」

「動けないから置いてきた。あ、怪我はしていないから、食べ物も置いてきたし」

「随分と手厚いな。俺だったら殴って見捨てていた」


 なんだか少しびっくりした。ガークは情に厚いと思っていたし、特にカイとは以前から知り合いだったようだったし。


「そんな顔しなくともカイには後から迎えをやる。あの馬鹿にはたんまりと尋ねることはあるからな。アリアの奴にもな」

「ん。よろしく」


 アリアは私の殺害リストのナンバーツーだ。ナンバーワンはマルクス。ガークには言わないけど、先に見つけたら実行する予定だ。カイをあのようにゾンビ化した原因もあるけど、今は自分が世話になっていた街や人にあんな化け物を襲わせようとする賊に縋りつく根性に腹が立つ。賊から一度助けたのに……。


「賊の冒険者には頭痛はするが、珍しくはないことだ。だが、私兵に偽装した賊だと? こんな大掛かりで手の込んだことを賊がするのか?」

「サメはなんか個人的に私を狙ってきたけど、他はこのバッタ騒動を起こして何かする予定だったみたい」


 ガークが首を傾げながら尋ねる。


「奴らとは面識はなかっただろ」

「うん。なんかイルゼを殺した報復だって」

「イルゼ――はあ? 待て待て、お前それは賊が『首残しのウルフ』だと言ってやがんのか? エミル殿は一言もそんなこと書いてねぇぞ」


 ガークの顔が近い近い。


「ああ、その話しは出なかったかも」

「先にそれを言いやがれ! ばかやろう!」


 ガークにこめかみをグリグリされる。痛い痛いって! ギンのビリビリが炸裂してやっと解放される。


「痛いし」

「うるせぇ」

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