異世界保母さん

 折角助けたと思ったのに……花のいなくなった穴を呆然と見つめていると、オジニャンコが穴の中へと飛び込み拾ってきた何かを土と一緒に渡してくる。

 え、いらないんだけど。勝手に手に置くのやめて。泥だらけになった手の上には小さなパステルピンクの植物があった。


「これってピンク色のヤングコーン……」

【新しい妖精が誕生したようだ。頼んだぞ】

「え? 何を? は?」


 待って。私にヤングコーンを預ける気満々なのはなんで? 私はカエデ妖精保育園じゃないんだけど。


【私もカエデとの約束を果たす時間だ】

「私の思考、聞こえてるよね。なんで普通にスルーしようとしてんの?」

【見よ。カエデの妖精は気に入ったみたいだ】


 ギンを見ればヤングコーンに栄養玉を与えていた。ちょっと、ギンちゃん、待って!

 オジニャンコが空を見上げ、煙草の煙を吹き出すように口から黒煙を出す。黒煙はみるみると形を変えると、迷いの森で見た一つ目の妖怪妖精が二匹現れた。全身が黒く黄色く濁った血走った一つ目が口を開け笑う。もう、ホラーだって!


「あの妖怪は何?」

【私の眷族である。愛い奴らだ】

「あれ、オジニャンコの眷族なん!」


 口を大きく開けてこっちを血走った目で見る二匹をもう一度確認……全然、愛い奴らではない。妖精の感覚ってなんかおかしくない? ベニの眷族はゴキブリだし、ギンの宝物は昔のエロ本とか私の下手くそな絵だし。

 一人で悶々と考えていたら、ずんずんと巨大化して行くオジニャンコ。何をする気なん? 大きさに押され、地面に尻もちを付く。


「ねぇ! オジニャンコ! 説明くらいして!」

【小物どもを殲滅する。私はその後しばらく眠りにつくが、良くない者が近くにいる。カエデ、拾い食いには気を付けよ】


 は? はぁぁぁ? 拾い食いなんか……いや、したことあるけど。何その忠告、おかしくね?

 オジニャンコはそんな謎な忠告だけをすると、黒い煙に形を変え眷族と共にバッタ竜巻の中に飛び込んだ。説明不足にも程があるんだけど……。このヤングコーン妖精はどうすればいいん? とりあえず、土と栄養玉と一緒にコップに入れ、不思議水を与えたが反応は全くない。


「ギンが仕舞うだえ~」

「うん。よろしく」


 ギンは自分が面倒を見ると大切そうにヤングコーンを撫で収納する。ギンちゃんがそれでいいならいいけど……。


「きゃうん」


 うどんの声で空を見上げると、バッタ竜巻が黒い煙に巻かれ急に辺りが真っ黒になった。


「ユキちゃん!」


 急いでユキに跨ると上空が徐々に明るくなり、ひらひらと何かが大量に降ってきた。降ってきた大きな花弁のような物をひとつキャッチ、すぐに後悔する。


「干乾びたバッタだし」


 ぐぇぇ。この降ってきてるの全部干乾びたバッタなん? ヒラヒラと何度も顔に干しバッタが当たり、イラついたように唸ったユキが氷の壁で辺りを覆う。


「ありがとう、ユキちゃん」


 干しバッタはそれからもしばらく降り続き、ひざ丈ほどまで死骸が積もる。なんだか乾いた笑いが出る。あんなに冒険者や私兵と共に苦労したバッタ討伐をこういとも簡単やってしまうなんて……。


「もうなんでもありじゃん」


 ユキが氷の壁を解除すると干しバッタが足元を埋め尽くすように流れ込んだ。辺りを見渡せば、どこもかしこもバッタの死骸で埋め尽くされていた。突風が吹くと干しバッタの死骸は大量に空へ舞い上がり、散り散りにいろんな方向へ飛んで行った。あれはだれが掃除するん? 私じゃないのは確か。

 遠目で冒険者と私兵が呆然と立ち尽くす姿が見える。双眼鏡で確認すれば、ガークを発見する。うん、ポカンとしているけど元気そうだ。


「ユキちゃん、ガークと合流しようか」

「ヴュー」


 ユキが私の背中を見ながら唸る。背中にはいつの間にか子猫姿になったオジニャンコ……かオハギが丸くなっていた。


「オジニャンコなの?」

「ん……オハギなの。眠いの。眠るの……」


 そう言うとオハギはスヤスヤと寝息を立て始めた。自由過ぎるでしょ! ユキも呆れた顔でオハギを見る。


「ユキちゃん、大変だったよね。ありがとう。街に戻ったらユキちゃんの好きなお肉をなんでも好きなだけ買ってあげる」


 ユキに後ろから掬われ背中へと乗せられる。おっ、機嫌よくなった? 疲れてたのに結構元気に走り出――


「ユキちゃん! フルスピードやめてー。全然疲れてないじゃん!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る