命名

「これ、賊だったん?」


 赤黒い魔石を持った賊がバッタ竜巻をここまで誘導してたってこと? 廃村にバッタを集めて何をするつもりだったん? バッタパーティ? そんなゲテモノパーティなど誰も参加したくはないって。


「とりあえず、この赤黒い魔石は綺麗にしよう」


 ギンから一斗缶を受け取り、赤黒い魔石を不思議水に浸すとおなじみの赤紫の煙が現れ魔石は半透明の物へと変わった。一斗缶の濁った水は汚水入れ水の魔石で吸い取る。この中の水、間違っても使うようなことがないようにしよう。絶対に。

 綺麗になった魔石は他の魔石と違う袋に入れる。なんだか背後に気配がして振り向くと、オハギの大きな顔が目の前にあった。


「ぎゃああああ」

【騒がしい。静かにしないか】

「うるさくしてるのはオハギでしょ!」

【私はあの生意気な小童のオハギではない】

「じゃあ、オハギはどこ?」

【いや、あれも私も一つの個体だが全く別物だ】


 え? 何? 二重人格ってこと?


【そうではない】

「あ! 勝手に私の思考を読むのやめて」


 妖精ってなんでこうも人の思考を勝手に読むん? やめて! 肩に乗るギンに視線を移せば、コテっと頭を傾げてこちらを見返す。可愛い。やっぱりギンちゃんが一番。

 色の変わった魔石を興味深そうに嗅ぎ始めたオハギじゃない猫、いや豹……。


「オハギとは別物なら、なんて呼べばいいの?」

【そんなのは知らない】


 大きな豹猫は、そう言うと興味のなさそうに前足の毛繕いを始めた。


「あ、そう。じゃあ、もう勝手に付けるから」

【勝手にするが良い】


 ユキを確認すれば何かニヤ付いている。あれ、いつもと反応が違う。勝手に付けていいのならそうするけど。


「じゃあ、オジニャンコで」

【……オジニャンコとは何故だ?】

「おじさん猫だから」


 自分で付けたのをこう言うのもだけど……ダサい。こみ上げる笑いを堪えながら名前の由来を伝えれば、オジニャンコの眉間にシワが寄る。


【その名前は何か悪意を感じる】

「もうオジニャンコで決定してるから。『勝手にするが良い』って言ったじゃん」


 尻尾をぺシぺシと地面に打ち付けながらオジニャンコが諦めたようにため息をつく。


【分かった。その名前で良い。それより人族の娘――】

「カエデ、私の名前はカエデだからそう呼んで」

【いいだろう。それで、カエデはその悍ましい魔石に何をした?】


 黒くなっている所は確かに汚い感じはするが、妖精にはこれが相当臭い物らしい。

オジニャンコに不思議水を見せると、何故か不思議水でなく魔道具のネックレスの方を凝視していた。魔道具が珍しいのか尋ねたが質問は無視された。オジニャンコめ。


【この水は恵の森の回復水か】

「オジニャンコもあの湖のことを知っているの?」

【確かにそれなら浄化は可能だな】


 浄化……ああ、サメが言ってたのはそのワードだ。やっと思い出した。なんだかスッキリする。浄化浄化。うん、もう忘れない。


「この赤黒い魔石は一体なんなん?」


 赤黒い魔石の話を振れば、オジニャンコが不機嫌に尻尾を地面にまたぺシぺシする。


【魔物と妖精を融合した腐った物だ】

「は? 何それ?」

【このような物が作られようとは……視える者が敵に回ったようだ】


 情報量が多いって! 視える者って何? 魔物と妖精の融合って何? 私、さっき浄化をやっと思い出してスッキリしたばかりなのに……マジカルワードを連発するのやめて。ちょっと状況の整理をしたい。

「オジニャンコ、まずあそこに落ちている死体から説明して」

【あの人族は腐った物でこの小物共をここに誘導していたので消し炭にした】


 消し炭……? ううん、詳細は聞かない。だって絶対グロイから。賊がバッタ竜巻の原因なのはもうほぼ決定じゃん。でも、なんでこの廃村がそんなに重要なのか分からない。


【その目的はこっちだ】


 また思考を勝手に読んでるし、やめて。やめろやめろと念じながら思考を送ったけど、オジニャンコは聞こえない振りをして掘っていた穴へと向かったので後を付いて行く。オジニャンコが穴を見ろと首を振ったので恐る恐る中を覗き止まる。


「ん? あれは何?」 

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