腹ごしらえは重要

 ギンに仕舞っていたカエデ台車に乗り、オハギたちのいる方向へと向かう。もたもたしていたせいでしばらく進んでもバッタ竜巻が見えない。絶対こっちの方角だと思うんだけど。

 数回休憩後、スピードを上げ随分進んだ場所でギンが声を上げる。


「カエデ、あれあれ」

「うん。見えて来たね」


 バッタ竜巻を肉眼で捉える。まだ距離はあるが一旦台車移動を止め、双眼鏡で状況を確認する。バッタ竜巻なんかデカくなってね? ん? 目を何度もパチパチしてもう一度双眼鏡を覗く。


「嘘でしょ」


 待って待って。竜巻の横に巨大猫がいるんだけど。何、あれ。双眼鏡のピントをきちんと合わせ猫の姿を再度確認する。猫じゃない豹だ。成長してるけどさ、あれは絶対――


「うちの猫じゃん!」


 ちょっとなんであんなに巨大に成長してるん? 自重しなくていいとは言ったけど、あのニャンコ妖精め。辺りにいる冒険者や領主の私兵の別部隊を双眼鏡で確認したが、見る感じバッタ竜巻にだけ集中していて誰もオハギは見えてないようだ。あんなのが現れたらみんなパニックになるから。


「ギンちゃん、急ごう」

「だえ!」


 台車を出発させると、ドンとこちらにも振動が伝わるくらいの地鳴り音が聞こえた。え? 

 何? 双眼鏡で確認すればオハギが何かを踏み潰している。あれって、行き道で見掛けた廃村? 冒険者や私兵が走りながら退避するのが見える。下がりながらも魔法を撃ちこんでいるのはバッタ竜巻の方でオハギではない。オハギは完全に見えていないんだよね、あれ。

 台車のスピードを上げ、オハギたちの元へと向かう。


  ◇


 廃村の近くまで到着したのは良かったんだけど……オハギと合流しようとしたら何故か迂回して来たバッタ竜巻に巻き込まれた。その所為で台車はバッタ詰めになり、使い物にならなく途中で放棄した。さらば、マイ台車よ。


「ビリビリだえ~」


 ギンのビリビリが私の周辺を円状に囲んでくれたおかげで障壁のようにバッタを感電させ焦がす。その香ばしい匂いが結構食欲をそそる。バッタだと頭では理解してる。でも、お腹が空き過ぎてる。。そういえば、胃の内容物を全て吐いたことでお腹は空っぽだ。お腹が空いたことに気付いてしまえば、別の事で気を紛らわせようとしても無駄だ。このビリビリバリアがあれば大丈夫だよね? いや、バッタは食べないよ。


「あ、ダメ。ギンちゃん、カステラを出して」


 もうバッタが顔にぶつかって来てもいいや。その場に座り込み、ダリアの母親から貰っていたカステラを頬張る。


「うまっ。うまっ。疲れてお腹空いている時はやっぱり甘い物だね」


 カステラを食べている最中もビリビリの障壁に当たってバッタが焦げ落ちる音はしたけれど、気にしない。カステラ最高じゃん。

 カステラを完食。元気も出たんだけど、辺りの視界は数メートル先がやっと見えるほどバッタが飛んでいる。コカトリスの仮面にもギンのビリビリ障壁を抜けたバッタがバシバシと当たる。これじゃあどの方向に行けばいいのかすら分かんないじゃん。


「カエデ、あっちだえ~」


 ギンが示す方角にしばらく進むと急にバッタが障壁にぶつかる数が減った。遂にバッタ竜巻を抜けたかと思ったけど、見上げたその光景に釘付けになる。それはまるでイワシのトルネードのようにバッタが無数にグルグルと巻き上がりながら空を飛んでいた。ここってバッタ竜巻の目の部分なん? 少しの間、バッタのトルネードを見ていたがバキバキと崩れる音が近くで聞こえた。廃村もこの竜巻の目の中にあるようだ。少し歩くとすぐに廃村と……立派に成長した二階建ての豹になったオハギがいた。


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