忘れ物は回収

「え? そうなん?」

「ああ、間違いない」


 損傷の所為で始めは気付かなかったらしいが、数回会ったことのある領主邸の使用人だという。


「あ!」

「なんだ?」

「忘れてたけど、これもあった」


 エミルにサメの木箱にあった数枚の姿絵を渡す。フェルナンド以外はだれか分からないけど、重要人物っぽい人たちの描かれている紙だ。


「領主様とフェルナンド様……これを賊が持っていたと?」

「これ、領主様なんだ」


 絵姿の他の人物たちは分からないらしい。領主だと言われた男の姿絵はフェルナンドには全くに似ていなし、年齢も随分上のような感じだった。


 エミルが急いで紙に何かを書き始めたと思ったら、私兵の二人を呼んだ。


「領主様、フェルナンド様、双方への緊急連絡だ。今すぐ行け」

「すぐに向かいます」


 声を合わせ、書面を受け取った連絡役の私兵をジッと見た後にエミルに眉を顰める。二人とも顔全然見えないし、この私兵は大丈夫なん?


「なんだ、なんな顔を――ああ、分かった。お前たち、待て」


 エミルが連絡役の二人を止め、頬当てを取るように命令して口の中も確認する。その様子を見ていた私にも確認するかと尋ねられたが、断る。そんな趣味はない、やめて。連絡役は二人とも問題がないということですぐに出立した。バッタの被害でティピーが飛ばされた時に馬も逃げたらしく、連絡役はランニングで出発した。普通に結構走るの速くね? 私も早くオハギと合流しよう。


「もう、私への疑いは晴れたよね」

「そうであるな。カエデのことは領主様へ緊急報告書にも記しているので後ほど召還されると思ってくれ」

「ああ、うん、分かった。じゃ、もう行くから」


 走り出そうとしたら偽古傷男が目覚めたのか、うるさく騒ぎ出した。足枷、手枷、首枷で地面に固定され、全く動きの取れなくなった偽古傷男を見下ろす。


「あ、これ返してもらうから」


 手に刺さったままのアイスピックとナイフを回収する。


「ぐわぁぁ。てめぇ、覚えてろよ。絶対殺してやる」

「えぇぇ。たぶんだけど先に死ぬのはそっちだと思うんだけど」


 こいつ、自分の回りにいる私兵の殺気に気づいていない? 多分だけど、尋問という名の拷問で数日も生きていられないと思う。まぁ、頑張ってクソ虫。口角を上げ笑う。


「クッ。お前も同じだろ! 地獄で殺してやる!」

「なんで私が地獄に行く前提なん? 失礼じゃね?」

「死ね死ね死ね――もごっ」


 死ねとしか言わなくなった偽古傷男に私兵がうるさいと口枷をすると、ギロリと睨まれたので手を振り別れの挨拶をする。


「バイバーイ」


 出発する前に肩を鳴らしストレッチをする。よし、行くか。


「カエデ、待ってくれ」

「えぇぇ。まだ何かあるん?」


 走り出そうとすればエミルに引き止められる。今度は何?


「この手紙をガーク殿に頼む」

「ん。分かった」


 エミルから手紙を受け取る。さて、オハギ、ユキ、うどん、待っててね。ギンが肩でジャンプしながら言う。


「出発だえ~」










**

このエピソードで300話目を迎えました。

いつもご愛読していただけること大変感謝しております。

これかも楽しく執筆できればと思っております。

次回からまた数日間隔の投稿とさせていただきます。


全てにお返事をできておりませんが、コメントは拝見しております。

たくさんのコメントありがとうございます。


よろしくお願いいたします。


トロ猫

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