ほじほじ

 エミルにカイのことは伏せ、それ以外の事情を少し誤魔化して説明する。別にカイを庇ってはいない。赤黒い魔石とかゾンビとかの話で精一杯になっているエミルにカイの話なんてどうでもいいはずだから言わなかっただけ。あと不思議水の話題も避けたかったし。事情を聞いたエミルは首を振りながら唸る。


「俄かに信じがたい情報である。冒険者の中に賊がいたとしても然程驚きではない。そのサ、シャークと言う名の冒険者一味のことはギルド職員でもあるガーク殿に相談するとして、問題はローカストが計画的に発生したかもしれないこと……それから『ぞんび』になるという身体に影響する魔石だ」

「魔石が体内に入ることあるん?」

「いや、そんな事実は今まで聞いた事はない。正直、私はカエデの話は……申し訳ないが、すべてを信じることはできない」


 うん。私もエミルだったらクレイジーカエデの作り話だと思うよ。でも、残念ながら事実だから。


「実際、見せるから。信じるか信じないかはその後に自分で決めて」


 ゾンビ化した私兵の元に向かい人的に切られた傷口の中にある魔石を取り出すために棒を突っ込みかき混ぜる。赤黒い魔石さえ取り除けば私兵を助けることができるかもしれない。痛みは感じていないようだけど、がうがうと歯をむき出しに吠えるゾンビたち。


「少々乱暴ではないか?」

「触りたくないし。エミルが触りたいならご自由にどうぞ」


 エミルが涎をまき散らし、たぶん失禁もしている私兵に苦い顔をする。ですよね。

 更に力を加え押さえた棒の横から血まみれの赤黒き魔石が飛び出し地面に落ちる。おお、ちゃんと出たじゃん! 赤黒い魔石が飛び出すとゾンビはがっくりと項垂れた。エミルが急いで持っていたポーションを掛け口に注げば私兵が正気を取り戻す。ポーションでも治るなら不思議水は出さなくてもいいよね。


「おい、ジョン。気が付いたか?」

「……中隊長? がぁぁぁ」


 ゾンビ化した私兵は正気こそは取り戻したけど、すこぶる顔色が悪く全身が痛いと苦しみながら叫び出した。急いで不思議水を口の中に流し込めば、傷口から赤紫の煙が出た。ジョンと呼ばれた私兵はその後痛みから解放されたが体力の限界だったのかすぐに気を失った。


「ジョン、おい! ジョン」


 一応死んでないかを確認する。呼吸はしている。良かった、まだ生きてる。


「気絶してるだけだから。ほら、他の二人もやるから手伝って」


 その後ゾンビ化した他の二人の私兵も同様にほじほじをして魔石を取り出す。不思議水を流し込む度にエミルの視線が刺さったけど、気にしている暇はない。二人とも体力は失っているが大丈夫そうだ。良かった良かった。

 地面に落ちた赤黒い魔石に触れないように観察する。やっぱりバッタの目なんかより大きな魔石だ。カイに入っていた魔石がゴルフボールくらいの大きさだとすると、これはビー玉くらい。あいつがやったのか? 気絶した偽古傷の男を睨む。


「それがカエデの言っていた魔石か」

「うん。あ、これ、本気で危険だから素手で触るのやめた方がいいから」

「これは私の知っている魔力の源ではない。このように黒くなったものは初めて見る」


 トングで赤黒い魔石を掴み、コップに入れた不思議水に浸ける。こんなデンジャラスのものは野放しにはしない。小さな赤紫の煙が上がると、魔石は半透明の物に変わった。


「これは、何をしたのだ」

「サメの話だと掃除をすれば効果はなくなるみたい。体内に入っても掃除すればいいって」

「……掃除?」


 あれ、サメは確かに綺麗にしたのかと聞いていた。不思議水のパワーで綺麗になったんだよね? あれ? なんか違うワードだった気がする。なんだっけ。まぁ、いいっか。それよりコップに入った濁った不思議水を凝視するエミルになんか説明必要? 必要だろうな。マジカルウォーターで切り抜ける?


「隊長、ジョンたちを安全な場所へ移動します」


 他の私兵に安全な場所へと運ばれていくゾンビ化被害者の三人を見送りながらエミルが尋ねる。


「カエデ、大変感謝はしているが……あいつらに飲ませ、魔石の色を変えた水のようなものはなんだ?」


 あ、やっぱり聞いてきた。あ、そうだ。


「ポ、ポ、ポーションだけど」

「カエデは嘘が下手だと言われたことはあるか?」


 それは、常に言われている。


「すまないが、この事も含めカエデのことは全て領主様に報告しなければならない」

「あ、そうなるよね。内緒にして――ってできないよね」


 エミルが苦笑いをする。まぁ、面倒な事になりそうだったらさっさと退散すればいいか。


「恩人にすまんな――ん?」


 エミルが並べていた遺体を見ながら急に静かになったと思ったら、損傷の一番激しい遺体に飛びつくように近付き両目を開ける。


「えぇぇ。ちょっと、何してんの!」


 損傷の激しい遺体はすでに目が白くなっている。何をしているか分からないし、普通にグロい。いや、本当に何してるのこの人。エミルが立ち上がり難しい顔で唸る。


「良くないな。これは、領主様の使用人だ」


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