時間がない時ほど邪魔が入るのはなぁぜなぁぜ

 棒で突きながら初心者ゾンビと化した私兵の身体を調べる。胸元の服を棒で捲ると明らかにバッタの噛み傷以外のものがある。これ、刺し傷じゃん。傷口を抉るとバッタの目の魔石よりも大きいが、比較的小さな赤黒い魔石が傷口から露見する。やっぱり原因はこれか。これならゾンビ化から私兵を救済してあげられそう。棒で赤黒い魔石を抉り出そうとすれば後ろから怒鳴り声がした。


「おい、お前、危険だろ! 勝手なことをするな!」


 私兵の一人が乱暴に腕を握るとギンの特大ビリビリが炸裂して地面に倒れた。ん? ギンのビリビリがこんなに効くってことは……コイツ……。


【悪意があるだえ~】

(やっぱり)


「お前、領主様の私兵に向かって攻撃するとは! 覚悟しろ」


 地面に倒れ、頬当てが取れた私兵がこちらを睨みつける顔の傷に見覚えがあった。眉から鼻にかけて大きな古傷は木箱に入ってた遺体の一人に凄く似ている。こんな短期間にそんな目立つ特徴的な傷をもつ人間をそう何回も見ないって。絶対怪しいじゃん。


「ってか、顔の傷の回りなんか焦げてね?」


 古傷の男が反射的に傷を触るとペロッと剥がれるのが見えた。え? あれって偽物の傷なん? ギンのビリビリで焦げたん? ボソボソと偽古傷の男が何かを呟き、フッと笑う。 


「従魔もいない――我らの計画の――」

「なんて言った? 聞こえないんだけど」

「やめてくれー、殺さないでくれー」

「は?」


 偽古傷の男が大声で助けを呼べば、仲間が攻撃されたと気が立った私兵達に囲まれた。偽古傷の男は笑いを浮かべ少しずつ下がる。あいつ、もうぜったい賊の仲間じゃん。


「もう、ずっと足止めを食らって凄いイライラしてんだよね」

「何を言っている! 例え銀級の冒険者とて領主の私兵への攻撃は反逆だぞ」


 こちらに槍を向ける本当の領主の私兵だろう男たちにため息をつく。


「後で謝るからよろしく」

「は? なっ!」


 偽古傷のある男以外の腹に石の魔石でボウリング玉ほどの大きさの石玉をぶち込む。次々と腹を押さえ倒れる私兵。手加減はちゃんとした、領主の私兵を殺す予定はないから。でも、相当の痛さだとは思う。眉を顰め偽古傷の男に狙いを定めれば逃げだした。絶対に逃がさない。


「石バンバン」


 舌打ちをする。両足を石バンバンで仕留めたはずなのに、何か防具をつけていたようで貫くことができなかった。偽古傷の男は一度バランスを崩したが再び走り出したのでダッシュで追いかけ後ろから飛び蹴りを食らわせそのまま一緒に地面へと転がる。


「ギンちゃん、アイスピックとナイフを出して」

「だえ!」


 苦しむ男を仰向けにして跨りグーで顔面を殴り、右手を地面に押さえつけアイスピックで刺す。


「ぎゃあああ、クソ野郎! 何しやがる!」


 時間を置かずに左手をナイフで刺し、騒ぐ偽古傷の男の口中をグーでこじ開ける。どの歯だ?


「あった。これか」


 奥の銀歯を摘まむとグラグラしていた。ただの差し歯のようだ。ゆっくりと引き抜くと、古傷の男が目を見開き暴れ始めたので股間を狙い何度も蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。


「何をしている。やめろ!」


 エミルが止めに入るころには偽古傷の男は気絶をしていた。


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