七皿食うて鮫臭い
走りながら辺りを見れば、バッタが随分と共食いを行ったようで結構死骸が多い。互いに殺し合う分には問題ない。
倒れているサメが見え始めたのでスピードを緩め歩く。
サメの倒れている場所まで到着するとスパキラ剣がキラキラと光ったので手を振る。
「スパキラ剣、お疲れ」
サメは全く動かず、回りには足から流れた血は確かに広がっている。でも、そんなに多い量ではない。これ、本当に気を失ってる? 怪しい。
「サメ、聞きたいことがあるんだけど」
返事なく倒れたままのサメを棒の先で突くと、ピクっと動く。あ、これ、絶対狸寝入りじゃん。
「おーい、おーい、おーい」
何度かサメを棒で突いたけど、狸寝入りを貫くつもりらしい。煌めいたスパキラ剣を見ながら口角を上げる。
「スパキラ剣、よろしく」
足を貫いたままスパキラ剣が時計の針のように少しずつ右に動き始めるとサメの叫び声が野に響く。
「やめてくれ!」
「なんだ、やっぱ起きてんじゃん。聞きたいことがあるんだけど」
苦しむサメの注意を引くために何度か棒でツンツンすると棒を払われる。
「お前、なんなんだよ。もういいだろ、やめてくれ」
「いや、まだ何も聞いてないし。これなんだけど、これ何?」
今は色の落ちた赤黒い魔石をサメに見せると、一瞥してすぐに視線を逸らした。
「そんなのは知らねぇ」
「えぇぇ。これ、サメがカイに刺した魔石なんだけど。因みにカイはちゃんと生きてるから」
サメが目を見開き、恐怖の入り混じった目で私を見る。
「は? いや、あれは……そんな色じゃ。あれをカイの中から取っただと?」
「ああ、色ね。うん、なんか落ちたんだよね」
「吸い込んだものを浄化したのか? そんなの不可能だ」
浄化……? 確かに不思議水で綺麗にしたけど。それより気になる吸い込むというワード。
「吸い込んだってなんの話? これが吸い込まれたらカイみたいになるん?」
「魔人め、これでも食ってろ」
「あ、ちょっと!」
サメが投げた物を急いで避けたが足を掠ってしまう。ギンもビリビリを出したようだけど、余りに一瞬のことだった。不思議水を掛けて治療しようと足を確認すれば、赤黒い魔石が身体に侵入中なのが見えた。
「ぎょええ。なんてもん投げるん!」
「足を切るだえ!」
「やめて!」
急いで身体に侵入しようとする赤黒い魔石を握り、太もも引き抜くと血しぶきが飛び激痛が全身を走った。あー、めちゃくちゃ痛い!
「危ないし、痛いし。もう、これなんなん?」
赤黒い魔石を地面に投げ、責めるようにサメを見下ろす。これは許さないから。不思議水で足の傷が癒えていくのを見たサメが逃げようとするが、スパキラ剣はビクともしない。
「俺に近づくな! 魔人」
「大袈裟な。一歩近づいただけじゃん」
魔人魔人って失礼じゃね? もう、痛めつけてでもこの赤黒い魔石のことを聞き出そう。サメと距離を縮めれば、口が動くのが見えた。あ、魔法を使おうとしてるじゃん!
「石バンバン」
石の魔石で両腕を貫き、詠唱を中断させる。叫び声も出さずにダランと腕を地面に落としたサメはタガが外れたように笑うと急に黙った。
「お前たち魔人同士で殺し合いでもしろ」
口の中から鈍い音がすると、サメが盛大に血を吐き出した。
「えぇぇ」
急いで不思議水を飲ませようとしたがサメに抵抗される。口をこじ開け不思議水を流し込んだがが、間に合わなかった。ちょっと、何も聞き出せていないんだけど!
自分から襲ってきたくせに自死って何? 勝手に現れて、邪魔して、カイを殺そうとして、自死……身勝手過ぎる。
サメの口の中を調べると、崩れた一つの銀歯から緑の液体が漏れていた。毒?
「あー、失敗した」
もう少し上手く事を運べたはず……でも、後悔してもどうしようもない。スパキラ剣をサメ足から抜き綺麗にしながら誉めるとカタカタと嬉しそうに揺れる。
サメの血が溢れる見開いた目をタオルで閉じ、手を合わせる。カイにあんなことを平気でする奴を生かすつもりは正直なかったけど、この死に方は胸糞が悪い。他に赤黒い魔石を隠し持っていないかと身体を調べれば、小さな箱が出てきた。これ、知ってる。以前オスカーの持っていた収納の魔道具だ。
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いつもご愛読ありがとうございます。
コミカライズ単行本7/15発売です。早い場所ではすでに書店やネットで購入可能のようです。単行本のカバー下の最初と最後にコマ漫画もありますので、そちらもお楽しみいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
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