カエデの叱咤

 目の前に土の魔石で大きめの落とし穴を掘る。この大きさならカイもすっぽりだね。もう、落とし穴のプロじゃん。

落とし穴の前に立ち大声で叫ぶ。


「カイ!」

「ぐがあああ」

「石バンバン」


 減速させるためにカイの足を目掛け石の魔石で攻撃をする。両足にヒットしたのにも関わらず、痛覚が麻痺しているのかカイはそのまま突っ込んでくる。ちょっ! 落とし穴を飛び越える勢いじゃん! ヤバイヤバイ!


「ビリビリだえ!」


 すんでのところで炸裂したギンのビリビリのおかげでカイはスイッチが切れたように落とし穴に垂直に落ちた。ギンのビリビリは以前よりも強力だ。これが成長か。


「ありがとう、ギンちゃん」

「カエデ、水、水」

「ギンちゃん、棒を出して」


 落とし穴の中から這い上がろうとするカイを壊れた鍬の棒で叩き落とし、不思議水を大量に掛ける。この水圧なら這い上がって来ることは出来ない、はず。


「ぐわああああ」


 赤紫の靄が見えると声を上げながらカイが苦しみ始める。効いているのだと思いたい。カイが落とし穴から上がってこようとする度に容赦なく棒の先で激しく突き落とす。これさ、傍から見たら事件じゃん。もろに犯行現場だし。そのうち力を失くしたのかカイが落とし穴の底で不思議水に浸かりながら蹲った。


「ギンちゃん、どう?」

「まだ臭いだえ~」

「ええ、まだ?」


 一旦、不思議水を止め、カイにバッタを投げつけてみる。お? バッタには気が付いているみたいだけど、食べようとはしない。前進じゃん。獣のような声も聞こえない。うん。肩の傷口に不思議水を水圧シャワーのように掛けると魔石が飛び出して地面に落ちるのが見えた。


「おおお」


 思わず声が出てしまう。赤黒い魔石は溜まっていた不思議水に呑まれると煙を出し、その色を失った。カイはまだ蹲っているけど、息はしている。生きている、たぶん。

 ギンはもう臭わないと言ったけれど、半信半疑でカイの頭を棒で突いてみる。


「カイ、生きてる?」

「う、う……カ、カエデ? 俺はここで何を?」


 穴の底からこちらを見上げるカイに安堵のため息をつく。良かった。


「説明は後でするから、自力で出られそう?」

「は、はは。いや立つのも厳しそうだ」


 石の魔石で落とし穴に階段を作り、カイが起き上がるのを手伝う。


「重っ」

「ごめん」

「謝ってばっかじゃん」

「ごめん……」


 落とし穴から無事脱出をする。色の落ちた魔石も回収、落とし穴を埋める。カイの肩の傷はまだ痛々しいけど、石バンバンで付けた傷などは不思議水のおかげか随分小さくなっていた。

 体力は随分削がれたようだけど、それ以外は大丈夫そうだ。


「今は時間がないから説明は後でする。悪いけどここに置いていくから」

「ああ、足手まといになるだけだ」


 本人も分かっているように邪魔になるだけだ。


「あの辺の木陰までなら連れて行ってあげるから、そこまで動いて」


 近くにあった木陰までカイを移動、息を整える。


「何から何までごめん」

「……あいつらが盗賊って知ってたの?」

「始めは知らなかった。途中からおかしいって」


 カイがボソボソと話し始めた内容は、この一年、仲間をあのように強烈な暴力で失ったアリアが酒や良く分からない薬におぼれ始めたという。その内、あの冒険者に擬装していた盗賊団と関わりを持ち始めたという話だった。アリアを助けようとカイもサメたちの下っ端としてつるむようになったというクソどうでもいい話。


「カイはアリアの何なん?」

「その、友達……」


 呆れて白目を剥く。お友達って……カイ、バカなん? せめて彼女とかセフレとかまだ分かるけど、中途半端なお友達ポジションで利用されるって……。


「カイ……アリアはもうダメ。やめな」

「アリアも――」

「庇うな! 今の自分を見ろ! カイを殺すかどうか私に考えさせんな!」

「ごめん……」

「謝んな!」


 無言になったカイの前に食べ物と不思議水を置く。これなら一日くらいここにいても大丈夫だよね?


「あ、ありがとう」

「ん。終わったら迎えに来るから、もしその前に自分で移動できそうだったらこの木に伝言を残して。無理はしないで」


 カイが返事するとすぐにその場を去る。今はこれ以上一緒にいたらイライラゲージがマックスになりそうだ。双眼鏡でサメの位置を確認、まだスパキラ剣は刺さったままだ。動いてないけど、あれって生きてる? とりあえず、走り出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る