ギンの成長
数メートル転がり、止まる。身体は痛くないので怪我はしていない。でも……全身、バッタ汁まみれじゃん! もう最悪じゃん。ずっとグロの時間なんだけど、なんで?
「ん? 何これ?」
口に感じた異物を取れば、バッタの足の一部だった。もう、やだぁ!
ブツブツと文句を言いながら立ち上がりカイを確認すれば、地面に視線を落として立ち尽くしていた。普通に怖いって! 恐る恐る近付き声を掛ける。
「カ、カイ?」
カイがカクカクと動きながら上げた顔には目元まで到達した黒い血筋が見えた。急いで肩の傷に不思議水を掛けると、カイと目が合う。
「カ、カエデ? ダメだ。抑えられない。カエ……逃げテ……ニゲロ」
「カイ! 今助け――」
「があああ」
涎をまき散らしながら叫び出したカイが再び猛スピードで突っ込んでくる。やばいやばい。カイがぶつかる寸前で横へ転がりギリギリで避ける。
「危なっ」
「がああ、ががが」
カイが左右を何度も確認しながら焦点の合っていない目で私を探し始めたけど……普通に見逃せないくらい目の前にいるんだけど。
(ん? もしかして目が見えていない?)
足元にいたバッタを掴み遠くへ投げるとカイがそれを獣のように追い掛けて――
「食べてるし……」
カイはお食事タイムが終了すると、再び身体を左右にカクカク揺らしながら私を探し始めた。あれゾンビじゃん。
もう、あの身体の中にカイの精神はあるん? これ、カイはすでに死んでるんじゃ? バッタが飛び跳ね音を立てる度にそれを追い掛けて食う作業を繰り返すカイは完全にゾンビだ。あの魔石、恐怖でしかない。私だって赤黒い魔石を吸い込んだのになんで平気なん? 魔石の量の問題? まず、赤い魔石と赤黒い魔石の違いが分からない。今分かるのは赤黒い魔石はゾンビを生産することくらい。這いつくばりながらバッタを口に掻き込むカイを見下ろし、目を瞑る。
もうカイが存在しないのなら道はひとつだ。
――カエデ、後悔がないような人生を歩むんだぞ
なんでここに来て、父親が酔っぱらった時にドヤ顔で言ったセリフを思い出す。ああ、もう!
最終判断まで、カイを助けられるなら可能な限りできることは全部やるか。
(カイめ、今回のことが終了したら覚えておけよ)
音を立てなければカイは私の存在に気付かないけど、それじゃこっちも何もできない。まず、拘束して肩の中にあるだろう魔石を抜くか? でも、バッタが動く度に反応しては食いちぎるカイに近づきたくない。お食事にされるのは勘弁してほしい。ギンに相談したいけど、声を出せばカイが襲ってきそう。どうしよう。
【だえ~】
頭の中にギンの声が響く。
(え? ギンちゃん?)
【ギンだえ~】
肩にいるギンが手を上げながら答えた。
(ギンちゃん! ついに思念を使えるようになったんだね。偉い偉い)
【偉いだえ~】
うんうん。タイミングもばっちりでありがたい。ギンを撫でながら解決法を尋ねる。
【肩を切り落とすだえ~】
ガクッと項垂れる。この辺の思考はベニとそっくりだ。
(できれば、カイが死なない選択でお願い)
現時点でカイの生存は定かではないけど……多分、肩を切り落としたら確実に死ぬから。それに、スパキラ剣はサメの足に刺さっていて手元にはない。風魔法の杖を使ってもいいけど、高い確率でカイを真っ二つにしそう。
【一斗缶だえ~】
一斗缶? ああ、魔石と同じように不思議水に沈めるってこと? 一斗缶では無理だけど、別のやり方でカイを不思議水に沈めることは出来るじゃん!
(ギンちゃん、流石だね)
【だえ~】
そうと決まれば話は早い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます