ボーリング
「カイ、せいぜい俺の時間稼ぎになれよ」
「ちょっと!」
サメが尖った大きめの赤黒い魔石を振り上げ、そのままカイの肩に刺す。止めようとしたが、一瞬のことで間に合わなかった。赤黒い魔石は肩の傷口から半分ほど中へ食い込むとカイが苦しみながら肩を押さえる。
「がぁぁぁ」
カイが首や肩を掻きむしり始めると、乱れた服から見えた肌には黒い血筋が肩から首へと伸びていた。サメが詠唱を唱えると数個の小さい火の玉がカイと私の回りに円状の炎が燃え上がった。
「は、ははは。悪く思うなよ」
「カイに何したん?」
「はっ。すぐに分かるさ。魔人のお前でも流石に知り合いを殺すのは躊躇するだろうからな。ゆっくりこいつが精神を食われるのでも見ていればいい。手土産にこれでもくらえ、魔人が」
サメがまた詠唱を始めると足元も覚束ないカイも唱え始める。
「か、風の力我に鋭く切る刃を【ウィンドカッター】」
「炎の力よ我に強い灯を【ファイアーボール】」
風の刃と火の玉が上空でぶつかり爆発するとカイが膝から崩れ落ちた。
「カイ! 大丈夫!」
「そいつはもう長くは持たないだろうな」
サメはニヤッと笑うとすぐに逃げ出した。
「あ! 逃げんなって!」
サメを追い掛けようとしたが、カイのけだもののような咆哮の声で足を止めた。何、この悪寒。
「カイ?」
「あがああががが。カ、カエデ。ごめ、ごめん」
呻きながら血走った眼にはまだカイの意思が見えるけど、そう長くはもたなそうだ。ひとまずこの肩から飛び出している魔石を抜くか。赤よりも黒に近い魔石を触るのを躊躇したけどグッと力を入れ、魔石をカイの肩から抜き出す。
「えぇぇ。半分しか抜けてないじゃん!」
「臭いだえ~」
半分に折れた魔石が手の中で怪我もしていないのに回りながら肉を抉ろうとする。何、このデンジャラスな石は! 急いで地面に投げ捨て不思議水を掛けるが、他の赤黒い魔石のようにすぐには半透明にならない。
「ギンちゃん、一斗缶出して!」
「だえ!」
トングで赤黒い魔石を挟み不思議水で満たした一斗缶にぶち込むと、不思議水が濁り赤紫の煙が上がる。一斗缶から摘まみ上げた魔石は半透明な物に変わっていた。今はこれが何かを考える暇はない。カイに駆け寄り不思議水を傷口に掛ける。何度も掛ける。
「ギンちゃん、どう?」
「まだ臭いだえ~」
カイの中に入った魔石を探すが血が溢れててどこにあるか分からない。スパキラ剣がカタカタと動く。
「やめて。カイは斬らないから」
そうスパキラ剣に言い付け叩いたが、ガタガタと反発するように動き剣先を逃げるサメへ向ける。え? 投げろってこと? サメはまだ肉眼で見えるけど結構遠くまで逃げている。
「スパキラ剣、あの距離いけるん?」
スパキラ剣は返事をするかのように輝きを増すと徐々に熱くなった。分かったから、熱々になるのやめて。スパキラ剣を鞘から出し槍を持つように構える。
「じゃあ、いくよ」
半信半疑に力いっぱいにサメに向けスパキラ剣を投げる。手から離れたスパキラ剣はミサイルのようにターゲットへ向けぐんぐんと高速で距離を詰め、サメの太ももを貫いた。
「すごっ。本当に当たったし」
遠目でサメがスパキラ剣を抜こうとしているのが見えるが、どうやら無理っぽい。思わず、ざま見ろと笑う。
「カエデ!」
慌てるギンの声とビリビリが炸裂、同時に背後からカイにタックルされる。吹き飛ばされ地面に側面から着地すると、コロコロと転がりながらバッタを轢いて行った。
「いやぁぁぁ」
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