柿の話

「盗賊かよ」

「ただの盗賊ではない。高名なマルクス様の率いる影の支配者だ」

「……ああ、そうなんだ」


 なんだかどうでもよくなってきた。カイは地面に転がったまま、なんだか顔色が悪いようだけど助けるかどうか迷う。知り合いではあるけど、なんで何回も同じ間違いを繰り返すのだろうかとも呆れている。さて、この状況どうしようかな。クイーン関係の盗賊団って禄なのじゃないんだろうしな。サメがカイの腹を蹴り上げ叫ぶ。


「こいつが殺されてくなければ、てめぇは大人しくしていろ。てめぇにはイルザ様を殺した罪でマルクス様の元に連行する」


 あ、それバレてたんだ。カイが言ったん? オハギとギンがピクっと動き私の後ろに隠れる。


「あの人族、臭いのを持ってるの!」

「赤い魔石のこと?」

「臭うだえ~」


 どうやら、サメたちがバッタ竜巻やバッタの目が赤黒い魔石に変わった原因に関わりがあるようだ。


「何をブツブツ一人で言ってやがる! お前ら、さっさとフェンリルを仕留めろ」


 盗賊冒険者がユキたちに矢を放つが余裕で避けられる。飛んできた流れ矢が足元の近くに刺さる。


「危ないし!」


 地面に突き刺さった矢には尖らせた赤黒い魔石が付いていた。こいつら本気か? こんなものをユキとうどんに向けて放ったん? 矢を地面から引き抜き、サメを睨みつける。


「はっ。お前のような従魔使いは従魔さえ死ねばただの弱い人間なんだよ」


 は? なんの話よ? ユキとうどんは別に私の従魔ではない。サメがこちらの聞いていないことまで良く回る舌でまくし立てる。やっと終わったサメの話を要約すると、カイからの情報で私は魔法の使えない従魔使いと思っているらしい。まぁ、マジカルパワーゼロなのは事実だけど、石バンバン使えるし。倒れているカイを見れば、ほんの少し口角が上がっていた。


「ほら、カイ。お友達に謝れよ。女のためにお前の情報を売りましたって」


 サメに髪を掴まれ跪いたままのカイと目が合う。


「カ、カエデ。ごめん。ま、魔法が全然何も使えないことを言ってしまって……」


 どうやらカイは私のことを真実と嘘を混ぜて賊冒険者たちに伝えたようだ。再び殴られ地面に倒れたカイを眺め心の中で舌打ちをする。


(カイを助けないといけなくなったじゃん)


「女って誰?」

「あ? ああ、あの女も悪女だよな。アリアだっけ? カイ、知ってたか? あの女、マルクス様の情婦になってお前を売ったんだぜ。金で」


 カイが悔しそうに土を握る。アリアにいい印象はないし驚きもないが、どうやらマルクスに私がイルゼを討伐した話はアリアが漏らしたようだ。マルクスとアリアを今後の殺害リストに加え、バッタ竜巻の確認をする。

 バッタ竜巻はまだ肉眼で見える位置だが、双眼鏡を急いで覗くとティピーが巻き込まれ宙に舞い破壊されていくのが見えた。もうあんなところまでバッタ竜巻が進んだのか、やばいな。


「オハギ、うどんとユキと一緒に竜巻を倒してきてくれる?」

「カエデはどうするの?」

「こいつらの相手をして合流するから」


 賊冒険者の相手をしている間にあのスピードで移動する竜巻に農作地や村がこれ以上巻き込まれたら、この依頼を受けた意味がなくなる。仕事は受けたからにはちゃんとする予定ではいる。それにたぶん……これを止められるのはオハギだけだろうし。でも、能天気オハギだけを一人で向かわせるのは心配なんだよね。オハギを見れば、自分の揺れる尻尾を叩いていた。うん、すんごい心配だ。ユキがいればまだマシな気がする。それに……ないとは思うけど、ユキとうどんにもしもこの矢の赤黒い魔石が刺さってしまうことがあったとしたら嫌だ。ゾンビユキちゃんと戦っても負ける未来しか想像できない。絶対、カエデゲームオーバーだ。オハギと共にバッタ竜巻の方角へ向かわせるのがベストだと思う。


「オハギがこいつら焼くの!」

「ありがとう。でも、こいつらには他に聞きたいことがあるから」

「ギンはカエデといるだえ~」


 ギンがギュッと肩に抱き着く。うんうん。ギンちゃんは一緒にこいつらの退治をしようね。


「恐怖で頭がおかしくなったのか! さっきから一人で何をしゃべってやがる!」

「グルル」


 ユキが低い声で唸ると耳ナシの賊冒険者が棒に付いた赤黒い魔石を見せながら後ずさりをする。


「そ、そんな従魔なんかこれがあれば敵じゃねぇんだよ」

「あ? ユキちゃんを脅してんの? これ、返すよ」


 ギンから受け取った耳の一部を投げたが、軽さのあまりヒラヒラと宙を舞い、賊冒険者には届かずに地面へ落ちて即バッタに食われた。あれ? なんか、賊冒険者に耳を投げつけてショックを与えてやろうと考えていたイメージとは違うけど……耳ナシ賊冒険者は以前自分の一部だった身体をバッタに食われてそれなりのダメージを食らったようで呆然とその光景を見つめ、急に叫び出す。


「この男女が!」

「は?」

「は、はは。乳も膨れない奴なんて女じゃないだろ。カイに聞いたぜ。お前、28なんだってな。15の少年の間違いだろ」


 がははと全員が声を合わせ笑う。無表情で賊冒険者たちを眺める。


(柿の話をしやがって)


 こいつらは冒険者ではない賊なのだ。ユキたちをゾンビにしようとしているし、多分このバッタ蔓延にも関わっている。遠慮なんかいらない。殺す。


「――ていいよ」

「あ? なんて言ってんのか聞こえねぇんだよ。乳ナシ女が」

「オハギ、赤毛と地面に転がる人間以外、全員燃やしていいよ」

「分かったの!」









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