お客様のご到着
氷の箱に登り双眼鏡で現在の状況を確認する。ガークがいるだろう付近にひとつ燃え上がる竜巻が見える。あれはあれで危険じゃね? バッタ竜巻を観察していると違和感を覚える。
「なんか竜巻が全部同じ方角に向かってね?」
気のせいではない。領主の私兵が分離して討伐に失敗したバッタ竜巻も方向転換をしながら結局は他の竜巻と同じ方向へと向かっている。
「あの方角はロワーの街方面じゃん」
こんな都合よく統率されたように虫って動くものかな? ゴキちゃんズが頭に浮かぶけど、あれは『一応』妖精の部類らしい。
「オハギ、狙いはあの奥の竜巻なんだけどできそう?」
「余裕じゃんなの!」
「うん。もう自重とかしなくていいから」
「自重?」
オハギがコテンと首を傾げる。ああ、この何も殺せないようなつぶらな瞳で今からまた何億ものバッタを殺すのかと思うと鳥肌が立つ……でもオハギはかわいい。プニプニとオハギの頬っぺたを掴み真顔になる。
「昨夜みたいに黒煙を抑えなくていいってこと」
「にょろにょろ蛇を出していいの?」
「うん、もう蛇でもなんでもいいよ。オハギが好きな形で」
「分かったなの!」
ユキに乗って目的のバッタ竜巻へと移動しようとしたが、刺すような視線を後ろから感じた。ユキやうどんも同じように気配を感じたようで、歯を見せながら唸り声を上げる。
「お客さんが来たね」
バッタ竜巻は全て徐々に速度を上げ、ロワーの街方面へと向かっている。こっちは今すんごい忙しくて客の相手なんかする時間はないんだけど。うん、無視しよう。コカトリス仮面を着けユキに跨り出発しようとすれば後方から怒鳴り声が聞こえた。
「おい! こいつがどうなってもいいのか?」
木の後ろから蹴り出され地面に転がったのはカイだった。ニヤニヤとゆっくりその後に現れたのは赤毛の冒険者とその愉快な仲間たち。なぜか数人に分かれゆっくり登場、ゆっくり歩く。動作が遅い! カエデちゃん今忙しいから早く出て来て、早く用件を言え。
赤毛の男が転がって動かないカイを蹴り上げると鈍い音と呻き声がした。まだ生きているようで良かった。
赤毛の男を含む10人の冒険者たちが下品な顔をしてこちらをあざ笑う。こいつらは冒険者ってことでいいのかな、全員が以前見た賊とそっくりな表情なんだけど。仲間の一人は帽子を深くかぶっていたが、左耳から出血しているようで血が滲んでいた。たぶん、あいつがガークのティピーに穴をあけた奴だろうな。
徐々に遠くなるバッタ竜巻を眺めているとイラついたように赤毛の冒険者が怒鳴り声をあげた。
「おい! 聞いてんのか!」
「聞いてるって。で、脅しまで使ってなんの用なん?」
「お前に昨夜みたいに動かれると困るんだよ。俺たちに素直に捕まれ」
赤毛の男が紐を投げ、私に自らを拘束しろと命令する。
「え? 普通に嫌なんだけど」
「はっ。お前には死より辛いことが待ってんだよ。お前は触れてはいけないお方を激怒させた」
「誰を?」
赤毛の男の返事を聞く前に、ゴゴゴという音と共に全てのバッタ竜巻が一体化を始め巨大な竜巻へと姿を変える。更にスピードを上げたバッタ竜巻は段々と離れていく。あんな大きなバッタ竜巻、ガークたちは大丈夫なのだろうか。
「がはは。見ろよ。あそこまで大きくなったら銀級のお前でも阻止するのは無理だろうな」
高笑いする赤毛の冒険者たちとその仲間たちに呆れながらため息をつく。
「あれは、赤毛の仕業なん?」
「俺はシャークだ。名乗ったところで、てめぇには意味がないが――」
そう言って間を取りながら身だしなみを整えるサメ。なんの時間よ、これ。
「サメ、時間がないからもっと早く喋って」
「サ、サメ? 俺はシャークだ。シャーク様だ」
「分かったから。早くしてって」
サメが咳ばらいをして両手を広げ、地面に転がったカイに足を乗せ偉そうに鼻を上げ言う。
「俺たちは『首残しのウルフ』の一員だ。どうだ、これで分かっただろ。お前は詰んでるんだよ」
サメが再び下品な高笑いをすれば仲間たちも一緒に笑う。
首残しのウルフ……あれ、どこかで聞いたことある。ああ、以前賞金を金貨50枚貰ったクイーンイルゼの兄の盗賊団の名前じゃん。
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いつもご愛読ありがとうございます。
「一人キャンプしたら異世界に転移した話」コミカライズ単行本の発売まであと一週間になりました。詳しい情報は近況に載せておりますので、よろしくお願いいたします。
それから、私事ではありますが、7月の今月に商業作家一周年を迎えました。ここまでこれたのも皆さんや関係者様のおかげだと思っております。ありがとうございます! ここで書くと長くなりそうなので、こちらの話も近況に載せております。よろしくお願いいたします。
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