誰?

 30人ほど集まった冒険者たちの中にはカイの姿も見える。ガークが領主の私兵と共に協力してバッタの進行を可能な限りこれ以上進まないように全力を注げと演説をする。作戦は風の魔法使いと土の魔法使いが竜巻の移動を妨害しながら残りの冒険者はバッタを斬ったり燃やしたりして討伐するそうだ。これはここ数日全員が知っているルーティンの対処の仕方らしい。時間もなく切実な今、急に作戦を変えるのは厳しいのだろう。この場に残った冒険者はある程度の経験者が多いそうだ。新人や子供冒険者は野営地で待機しているそうだ。

 領主の私兵は60人ほどいて、すでに統一した動きでバッタ竜巻に挑んでいた。双眼鏡を覗けば、風魔法で竜巻バッタの一部を誘導しながら土魔法で作った巨大壁で四方を囲んだ後に火魔法で燃やしていた。結構、効率良くに進んでいるように見える。


「あ、嘘ついた」


 領主の私兵が作った土壁がバッタ竜巻の勢いに負け、空中を舞う。同じ景色を目撃したガークが声を掛けてくる。


「カエデ、お前は他の冒険者と統率なんて取れないだろ」

「なんか言い方が嫌だけど。まぁ、そうかも」


 別に協力できない訳ではない。私だってそれくらいできる、多分。でも、ガークは私のだと思っているオハギの魔法の話をしているのだろう。あれは、逆に他の冒険者がいても邪魔なだけだから。ため息をつきガークに宣言する。


「あの奥の竜巻を狙うから」

「ああ、頼んだぞ。俺も本気で行く」


 スパキラ剣がカタカタと揺れ、ギンとオハギもやる気で楽しそうに肩と頭の上で踊る。なんで、みんなやる気なんだろう。私は全然やる気ではない、今すぐにでも帰りたい。銀級のタグを失わないために参加しているけど、もうここまでして銀級のタグ必要? ユキを見れば同じ気持ちなのか氷の壁を作り、飛んで来るバッタ避けに使っている。

 冒険者タグがないことで降りかかるだろう面倒事を考える……。再びため息をつき、ユキに手を振る。


「ユキちゃん、行くよ」

「ヴュー」

「お願い」


 ユキがゆっくり立ち上がり背中を向ける。ありがとう、ユキちゃん。

 ユキに跨り冒険者たちを見れば、カイと目が合ったので手を振ろうとしたら口元が動くのが見えた。


「あ ぶ な い 狙 わ れ て い る」


 え? どう言うこと? その直後、昨夜感じた殺気がした。今度は、明確に誰から放たれているのか分かった。カイの隣にいる赤毛の男だ。

 昨日初めて見た男だし、なんであんなに殺気のこもった目を向けられているのか全く分かんないんだけど。大体、カイはなんであんな奴らと一緒にいるん? なんだか妙にカイにも腹が立ってきた。ガークに話してからバッタ竜巻に挑もうと思ったけど、すでに遠くで燃え上がる大剣を振り回しながら叫んでいた。何、あの火が出る剣……怖っ。

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