跳ねるバッタを刎ねる、そして跳ね上がるカエデ

 ガークが領主の私兵を一人捕まえ事情を尋ねれば、バッタ嵐が予定より大幅に早く発生したという。


「規模はどれ程なのだ」

「今までよりも大型という事しか情報はない。悪いが私も隊長と合流しなければならない」

「そうか、引き止めてすまなかった。情報を感謝する。俺たちもすぐに向かう」

「お互いの無事を祈る」


 領主の私兵が慌ただしく去るのを見送りガークと顔を合わせ困惑する。昨晩のオハギの黒煙大暴れで相当数のバッタを討伐したはずだった。完全に駆除したとはいえないが、相当数を抹殺した自覚はある。会話を聞いていたオハギが百億二万三匹殺したと胸を張りながら言う。オハギ、わざわざ全部数えてたのか。まだ小規模の群れでそれだけダメージを与えたのに、前日よりも大規模なバッタ嵐が発生する?


「なんかおかしくね?」

「ああ。とにかくローカストが大量に発生したという場所へ向かうぞ」

「うん」


 ユキに乗ろうとしたら、初めてうどんに後ろから掬われ背中に乗せられる。


「うどん、大丈夫?」

「キャウン」


 うどんの全体的に以前よりもがっしりとしている。そうか、うどんも成長しているんだ。


「あ、おい! こら、おい!」


 騒ぐガークを見ればユキに背中のベルトを咥えられ宙吊りになっていた。歩き出したユキを止める。


「ユキちゃん、それで運ぶつもりなの?」

「ヴュー」

「それ完全にガークが地面に引きずられるじゃん」

「ウヴュー」


 ユキがヤレヤレ仕方ないなというような顔でガークに背中を向け、乗れと首を振る。ガークは嫌な顔をしながら拒否をする。


「いや、俺は走っていけ――」

「グルル」

「分かった、分かった。乗るからそんなに威嚇するな」


 ガークが無事にユキの背中に乗ると、初っ端からフルスピードで走り出した。あれ、絶対わざとだろうな。


「うどん。私たちも行くよ」

「キャオン」


   ◇◇◇


 バッタパラダイス現場に到着してすぐに白めになる。


「何これ、地獄じゃん」


 いや、もう向かう途中でバッタ竜巻は遠くからでも肉眼でもいくつか発生しているのは見えていたけど、実際に近場でどこを見てもバッタ竜巻だらけなのは精神的にきつい。

 目の前には飛び交うバッタがまるで竜巻のように大きく円状になりながら、結構なスピードで前進している。バッタ、どう見てても昨日のよりサイズが大きくね? 確認のために飛んできたバッタの頭をスパキラ剣で斬り掴めば、バタバタと暴れ逃げて行った。逃げた首無しバッタはそのまま他のバッタに引き千切られ喰い殺される。


「えぇぇ。あのバッタって頭部なくても動くものなん?」

「いや、そんなことはない……」


 ガークも辺りにいたバッタを大量に大剣で斬り刻む。通常なら即死のダメージを受けているはずなのにバッタたちは引き裂かれた身体で這いずりながら前へと進む。もう、ゾンビじゃん。

 ゾンビバッタに呆然としながら立っていたら、飛んできたバッタが顔にしがみつく。ヒィィィ。やめてくれ。


「しっかり前を見ろ」


 ガークが素手で私の顔に付いたバッタを握り潰し、顔面に容赦なくバッタ汁スプラッシュをくらう。


「ぎゃぁぁ」


 跳ね上がりながら叫びタオルで顔に付いた汁をゴシゴシと拭く。生臭いって! 勘弁して!


「そんなに飛ぶとは思わなかった。すまん」

「もう、帰りたいんだけど」

「他の冒険者と合流して作戦を練るぞ」

「私の呟き、絶対聞こえたよね?」

「行くぞ」 


 何も聞こえなかったと言わんばかりにガークが他の集まった冒険者と合流する。くっ、ガークめ。

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