壁に耳あり
時刻は6時。普段より遅く目覚める。寝る前に不思議水を飲んだおかげで目覚めは良い。
「ギン、オハギ、おはよう」
「おはようだえ~」
オハギも子猫姿で尻尾を振りながら手を上げ挨拶をする。テントから出ればガークが寝息を立てているのが聞こえた。こっそりガークの水筒の中身の水を不思議水に変え、テントをギンに仕舞いティピーから顔を出すとユキとうどんがいたのでオーク肉を投げる。
丁度野営の夜番をしていた領主の私兵が次の見張りと交代する時間のようだ。ガークが言うにはバッタ嵐の訪れは正午ごろ。夜中の間に相当数を討伐したのでその嵐も小規模のものだろうとガークは予想していた。
ユキは何故か与えた肉を食べずに私の近くまで移動して隣に座った。珍しい。
「あれ、ユキちゃん怪我したの?」
ユキの足に少しだけ血が付いていたので不思議水で治そうとしたが、怪我が見当たらない。誰の血? ユキが悪い顔をしながら口からペッと何かを吐き出し物が飛んでティピーの外側に付いた。その何かを剥がし即後悔する。
「人の耳だし」
最悪じゃん。ユキが謎のドヤ顔を披露する。ちょっと、まさかこんな場所で人を殺したんじゃないよね? 一応死体がないかティピー周りを確認する。死体はないけど、地面に少し血痕が残っており、ティピーに燃やしたような小さな穴ができていた。
「ユキちゃん、変な奴が来たん?」
「ヴゥ―」
どうやら誰かが私かガークに危害を与えに来たようだ。ユキを撫で、礼を言う。犯人は誰か分からないけれど、こちらには証拠がある。
「千切れた耳だけど……」
ガークも起きたようでティピーの裏にいる私を見つけ欠伸をしながら尋ねる。
「早いな。きちんと眠れたのか? そこで、何をしている?」
「あー、これ見て」
ガークがティピーに開けられた穴を見ながら舌打ちをする。
「あ、クソ。誰だこんなことしやがったの」
ティピーは領主からの預かりものらしく、その間に出来た損害については冒険者ギルドが補修費用を支払うことになるらしい。
「昨晩の仕業と思う」
「ああ、昨日確かめた時はなかったからな。盗み聞きしても俺のイビキしか聞こえなかっただろ。まったく誰だ、見つけたら弁償させてやる」
「盗み聞きはしてたかも。一応、証拠はあるよ。ほら」
例の千切れた耳を見せると、ガークは目を凝らしながら耳を凝視した。
「人の耳か?」
「うん。そこに……落ちてた」
「堂々と嘘をつくな。耳だけ千切ってご丁寧に置いていくわけねぇだろ。どうせカエデのフェンリルの仕業だろ」
「まぁ、そうだけど。ユキちゃんは悪くないから」
「責めてはいない。お手柄だ」
ガークがこれで犯人が捜しやすくなるとニヤリと笑いながら言う。
「耳いる?」
「いらん」
その後、ガークと朝食を済ませると領主の私兵が慌ただしくなるのが聞こえた。
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