赤い魔石
ガークの滞在するティピー近くでユキがぴったりと隣に付き、手に鼻を擦りつけてくる。
(うん。ユキちゃん、分かってる)
冒険者と私兵から向けられる驚き、恐れ、賞賛の視線の中に入り混じる誰かの強い殺気を感じる。一年も死の森で過ごしたのでこの毒々しい感覚は間違いなくそうだ。ユキやうどんも殺気に気づいたようで辺りを警戒する。妖精の二人は特に何も言わないから、この殺気を感じていないのかもしれない。人が多すぎて、残念ながら誰からこんな目を向けられているのか分からない。ガークがティピーの前で足を止めた私を催促する。
「カエデ、何をしている。早く中へ入れ」
「……変なことするの禁止だから」
「人に聞こえる声で変な事を言うな」
ユキとうどんも中に入るように促したが、ティピーの扉の前でジッと辺りを見ながら待機した。
ティピーの中に入るとガークが無言になったのでギンから出したきゅうりをボリボリと食べる。
「おい、この状況で何を食ってやがる」
「きゅうりだけど、ガークもいる?」
「そんなことは聞いていない」
「いや、だってお腹空いて死にそうだし」
「はぁ。そうだよな。カエデはカエデだ。深く考えすぎた」
ああ、カエデちゃん魔族説か。あんな黒煙の芸当見せられたんだしね。でも、私もあんな龍が出ると思わなくてびっくりした側だから。
「誓って魔族じゃないから」
「ああ。分かっている。今回、カエデのおかげで予定よりも早くあの虫共を討伐出来そうだ。報酬には色をつける」
お金か。たくさんあるけど増える分に文句はない。ガークにきゅうりを渡すと呆れながらも受け取り、二人でボリボリときゅうりを食べる時間になった。また、この無言きゅうりタイムだよ。
「もう一本いる?」
「いらん」
きゅうりをもう一本食べながらガークに尋ねる。
「バッタって魔石は出るの?」
「ローカストは下級の魔物で残念ながら魔石は出ないぞ」
「そうなんだ」
じゃあ、あの赤い魔石は一体なんだったんだろう。面倒な事は嫌だけど、とりあえずガークに赤い魔石の話をする。トングで挟まれた赤い魔石を取りガークに見つけた場所を報告する。
「魔力の源の魔石か。なんでそれで挟んでいるのだ?」
「危ないから」
毎回毎回私の体内に勝手に入って来る石ころだし。
「……確かに珍しいが、赤い魔石は魔法を取得した魔物からのみ取れる物だ。ローカストが魔法を使うとは聞いたことない上にあんな場所に落ちているはずがない」
「やっぱりおかしいよね」
「この黒っぽい部分はなんだ?」
「ああ、それ黒煙のすす。今、綺麗にする」
触らないように布で拭き取ろうとしたが、どうやら黒い部分は全てがすすではなくこの魔石のグラデーション模様のようだ。せめてすすだけでも全て落とそうと不思議水を赤い魔石に掛けると、ポフッと音を鳴らし赤と黒のグラデーション魔石は色が落ちていき半透明になった。
「えぇぇ」
「どういうことだ?」
ガークが唖然としながら私に答えろと迫る。
「知らないし、水掛けた――」
「なんだ?」
「ううん。なんでもない。水を掛けただけ」
ガークが魔石を訝し気に触れないように調べている間に思考を巡らせる。といっても原因は分かっている。不思議水じゃん。絶対そうじゃん。
「カエデ、この魔石を預かってもいいか?」
「あー、それ、要らないからあげる」
「いや、後で返す」
そんなデンジャラス石ころは要らない。ガークには分かったと返事をしたが、返されても引き取る気は一ミリもない。疲れが追い付いたのか、欠伸を連続でする。
「眠いから寝る」
「そうしろ。それから今日はここで寝ろ」
「……えぇぇ」
自分の身体を抱きクネクネしながら言うとガークにジト目を向けられる。
「……やめろ。そうじゃない。カエデもあの殺気を感じただろう」
「ああ、ガークも気付いてた?」
「まぁな。ああいう視線は珍しくはないが気を付けろ」
ガークに軽く返事をしてティピーの中でテントを張り、ギンの玉を準備して枕にダイブする。ガークがテントに対して何か文句を言っていたのは聞こえたが、瞼が重た過ぎてそのまま寝落ちする。
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