二つ名メーカー
まずは足場を確認する。また落ちるのは勘弁したい。大丈夫そうなので集中して唱える。
「土ホリホリ!」
一気にごっそりと辺りの土を魔石に吸収する。最初の時よりも範囲が広い。魔石を見ればメーターはマックスだ。
「うんうん。これくらい纏めて土を集められるなら、結構時間短縮になるかも」
先ほどのように少量ずつ出して燃やそうとしたが、オハギがもっと出せ出せとうるさい。
「本当に大丈夫なん?」
「時間短縮なの! 余裕じゃんなの!」
「余裕じゃんだえ~」
妖精の二人は私の言葉をどんどんスポンジかのように吸収している。ギンもオハギの影響を受けてからかバイオレントになってきているような気がする。大丈夫かな……。
ピョンピョン肩で飛んでいたギンがコテっと転び、絶壁を滑り落ちていったのをキャッチする。ギンはギンだ。変に心配しなくても大丈夫そう。
「ギン、ちゃんと肩にいてね」
「カエデ、あそこあそこ」
肩に乗せたギンがオハギを指差しながら言う。オハギを見れば、尻尾をピンピンと立てて凄いやる気だ。とりあえず、掘った穴の中に下り、土の魔石から半分くらい土を出す。だって全部出せば、生き埋めになりそうだし。
オハギが目を輝かしながら巨大な黒煙でバッタ入り土を包んで――
「ちょ、ちょ! オハギ!」
オハギから出た黒煙が十数メートルほど高く上ると龍のような形に上空をうねりながら更に大きく燃え上がった。
「えぇぇ。嘘でしょ!」
上空で青黒く夜空よりも輝きを放つ美しい龍を見上げると、急に龍が大きく膨らみ上空でそのまま炸裂、キノコ雲が上がった。
「あー、これアウトじゃね」
乾いた声で笑う。いや、私だってある程度黒煙は上がるのは予想していたし、それを冒険者に目撃されるのも想定内だった。でも……夜だし、黒煙の全貌は見えず火で討伐した程度で収まるかなと楽天的に考えていた。でも、これ絶対ダメなやつじゃん。あー、ガークから遠く離れててよかった。今、絶対凄い顔してるから。多分。
「カエデ、カエデ、オハギの燃やすの見た?」
「オハギ、あれは何?」
「にょろにょろ蛇!」
「なんで蛇?」
「蛇が悪いから」
オハギの思考はたまに謎だけど、蛇の飾りが施された悪党の剣にも相当な嫌悪感を示していた。過去の記憶と何か関係があるのか単に蛇が嫌いなのか。オハギをジッと見ると次の土を催促される。
「蛇はやらないって約束するならいいよ」
「分かったの!」
もう一回も二回も同じだろうけど、毎回毎回蛇のような龍が空に上がる演出は勘弁して欲しい。土を出すと、先ほどと同じように黒煙が土を包み上昇する。溢れて逃げようとするバッタはギンのビリビリを食らった後に黒煙に引きずり込まれていく。うん。これくらいでいい。
「この調子で残りもよろしく」
繰り返し何度も土を掘っては燃やし、十数カ所から黒煙の狼煙を上げる。冒険者たちは今では遠くにいるので、どんなリアクションをしているか全く分からない。
時刻は深夜2時。ぶっ通しでバッタ駆除を四時間もやってるじゃん。お腹空いた。ひとまずここで切り上げようと最後のバッタ土を黒煙で包み込むとオハギが首を傾げとある土部分を凝視する。
「どうしたん?」
「あそこに燃えない何かがあるの」
「ん? これ?」
黒煙の引いた土の中から黒い石を発見する。どうやら魔石のようだけど、黒い石を拾い土と煤を払い叫ぶ。
「あ! 赤い魔石じゃん」
急いで赤い魔石を地面へ投げ捨てる。危ないって! なんでこれがここにあるん? バッタの中に魔法使う奴がいるのだろうか。それにしては結構サイズの大きい赤い魔石だ。以前、魔法を使うゴブリンの体内に会った物より大きい。うーん。あとでガークに魔法使いバッタがいるかどうか聞いてみよう。赤い魔石はトングで挟み袋に入れ回収した。
「さて、戻ろうか。凄い疲れたし眠たい」
ガークと冒険者の待機していた場所へ戻れば、人数が半分ほどに減っていた。バッタ討伐を開始から数時間が経っているし、一旦野営地に戻ったのかもしれない。手を振りながらガークを呼べば、引きった笑顔を返される。
「ガーク、お疲れ」
「おま……ああ、確かに疲れたな。精神的に」
「冒険者たちは?」
「最初のドラゴンが打ち上がった時に二割ほど逃げたな。半分ほどは呆然としながら休息のために野営地に帰ったぞ。今いるのは、交代できた奴やお前の魔法を最後まで見物したがった変わった奴らだ」
「そうなんだ。じゃあ私も野営地に戻って寝る」
この場から早い所逃げようとすれば、がっしりとガークに肩を掴まれる。
「カエデは俺と来い」
「えぇぇ」
「行くぞ」
仕方なくガークと一緒にティピーへ向かうとボソボソと回りにいた冒険者や領主の私兵が噂をする声が聞こえた。
「黒煙のカエデだ」
やめて。
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