イン・アンド・アウト

 爽快に駆け出しサダコから貰った手袋に仕込んだ土の魔石を発動する。まだ見える範囲にガークがいるし、一応詠唱を唱えるか。えーと、詠唱は……なんだっけ? まぁ、なんでもいいや。


「土ホリホリ!」


 大声で唱えたと同時に自分の足元からゴッソリと広範囲の土が消え、穴となった部分に垂直に落ちる。あ、そうだ。これ土を吸うんだった。イメージしたのは土を一箇所に集めることだったけど、どうやら魔石の中に集めたようだ。ドンと二メートルほどの穴に落ちる。


「グヘェ。私、バカじゃん」


 地味に深いし、地味に痛い。

 明かりの魔石を棒につけ、辺りを確認する。根っこが垂れ下がった部分の横にバッタの卵だろう連結したウジみたいなものや白っぽい泡が見える。キモッ。


「どうしよう。魔石の中がバッタと卵だらけになるじゃん!」

「燃やすの!」

「ビリビリするだえ~」


 ギンとオハギが嬉しそうに声を重ねて言う。うん、オハギのあの黒煙なら全部始末できそう。私の落ちた穴を覗くガークをチラリと見上げるが、立ったまま微動だにしないのが逆に怖い。硬直しながら何を考えているのか大体想像つくけど、今は害虫駆除が優先だ。ちなみにユキはガークの隣からこちらをうどんと共に見下ろしている。ユキちゃんめ……あの感じ、絶対にバッタ駆除の手伝いはしないつもりだ。今回はギンとオハギがいつも以上にやる気なんで大丈夫、たぶん。

 この穴の中なら他の冒険者からも見えないだろうし、オンファイアーするか。黒煙だからオンファイアーというよりオンスモークか。オハギはあれを燃やすと言っているけど、どちらかといえば干からびさせているのだと思う。


「オハギ、少量ずつ出すから燃やすのよろしく。ギンちゃんは逃げようとするバッタにビリビリをかましてやって。じゃ、いくよ」


 ドサっと土を魔石から出すと一緒に絡まったバッタが蠢いているのも見えたが、すぐにオハギの黒煙がそれを包み込む。黒煙から逃げようと四方にジャンプしたバッタどもには無事ギンのビリビリが直撃する。痙攣したバッタは無慈悲に黒煙の中へと引きずられていった。時間をおかずにオハギが尻尾を揺らしながら報告する。


「終わったの!」


 黒煙が引くと残ったのは少し黒くなった土だけだった。バッタ、グッバイ。


「この土、少し黒くなったけど大丈夫なん?」

「ん。バッタと卵だけ燃やしたの」

「そんなことできるなら、わざわざ土を掘り起こさなくともよかったじゃん」

「んー、パラパラのほうが簡単なの」

「了解」


 少量ずつでもピンポイントで駆除できるならありがたい。幾度となく土を出す、燃やすを繰り返していたら土の魔石が空になった。


 穴は徐々にいらなくなった土で埋めたが、以前よりも全体的に低くなってしまった。少し段差があって色も変わったけど、これくらいならバッタの大群よりマシだよね。いい仕事をした。これなら数日あればこの一帯を駆除できそうだ。問題は昼間だ。元気になったバッタたちが竜巻のように進行してくるらしいけど、想像しただけで気持ち悪い。

 明かりの魔石を照らしながらガークの元へと戻る。いたいた、顔面凶器。


「怖いって」

「お前の方が怖いんだよ」

 


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