ビールに合いそう

「靴に血が付いたし」

「あ? そんなの気にしてこれからどうすんだ? 討伐の最前線に行けば、こんなの全身に浴びるぞ」

「えぇぇ」


 今回の依頼がアフターヌーンティーを啜りながらうふふすることじゃないとは分かっていたけど、この靴へのスプラッタープリビューいらなくね?

 テーブルに投げつけられた頭が潰れ、片脚の取れたバッタをじっくりと観察する。


(まぁまぁ大きいけど、ゴキちゃんズに比べれば小物だね)


 これくらいなら平気じゃんと思っている自分が恐ろしい。

 肩から降りたギンもバッタに興味があるようで、側に座り込み観察する。ああ、あのちょこんと座るギンの背中が可愛すぎる。


「何これ!」

「あ、オハギやめて」


 思わず大声を出す。背中から出てきたオハギがバッタを前足でツンツンと触る。バッタが何もないのにテーブルから落ちたら流石のガークでも不自然さに気づくから!


「何、一人で喋ってんだ?」


 オハギの見えないガークからは、カエデのワンマンショーにしか見えないじゃん。旅でギンとオハギと会話することが増えて、自然と声が出るのが癖になってる。人前では気をつけないと。


「バッタを観察してただけ」

「今年に限ってなんでこんなにデカいのかは分からないが、厄介——って何してんだ、カエデ」


 オハギがバッタを地面に落とそうとするのをキャッチ。注意したのに何も伝わってないじゃんこの猫。


「いや、ユキちゃんたちがバッタを食べるかなって思って」


 

 誤魔化すために、片脚を掴んでいたバッタをそのままユキの前で食べるかプラプラすれば、なんだかユキが超絶不機嫌になったのですぐにやめる。どうやら、ユキたちはバッタは食べないようだ。


「キャウーン」

「早く投げてなの!」


 うどんは甘え声で鳴き、オハギが遊びタイムなのかと尻尾を床にペシペシする。そういう時間じゃないから! 二匹がこれ以上興奮する前にガークにバッタを返す。


「ん」

「食わないのか?」

「うん。いらないみたい」

「贅沢だな。人だってこいつを食ってんのにな」

「は?」


 バッタが繁殖する時期は特に食料が減ることから、いつしかバッタそのものを食べるようになったとガークが説明する。

 食べ物がないなら仕方ないんだろうけど、色からして微妙じゃん。ガーク指の間から滴り落ち始めたバッタの青緑の血を凝視しながら言う。


「絶対、不味そうじゃん」

「まぁ、美味くはないな」

「食べたことあるんだ?」

「まぁな」


 聞けば、バッタの調理法はそのままぶつ切りにして素揚げしたのを醤油と青唐辛子とニンニクをすりつぶし和えるという。聞いた感じ、バッタが主人公のレシピじゃなければ普通に美味しそう。


「それで、私は何をすればいいん?」

「奴らは、日が沈むと動きが鈍くなる。夜間に可能な限り数を減らす予定だ。カエデも今夜から最前線に向かってくれ」

「うん。了解」


 別に最前線なんて行きたくないけど、これも銀級を保つためだと自分に言い聞かせる。よし! さっさとプチプチして終わらせよう。







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