一丁上がり!
ガークが冒険者たちに軽く事情を説明。
「——そういう訳だ。変な仮面は被っていたが、こいつは加勢にきた冒険者だ。連日のローカスト狩りで疲弊しているのは分かるが、判断を間違えるな。頼んだぞ」
ガークの叱咤を受け、冒険者たちは解散した。でも、中には私を覚えている人もいた。
「なんだよ! 紛らわしいな」
「おい、あれって以前うちのギルドにいた最短で銀級の上に昇った土下座の——」
「ちげぇぞ。あいつの二つ名はタダノ・カエデだって誰かが言ってた」
その二つ名どちらも違うから、やめて。
いい加減、土下座やタダノの二つ名に対して直接文句を入れようと思ったけど、松明に照らされた冒険者たちの顔が心底疲弊していたので軽く声だけでもかけるために冒険者の男どもに近づいて後悔。
臭っ。汗臭い。スパイシースメルがムワムワと鼻を攻撃してくる。
連日のバッタ狩りと野宿で汗と汚れが集結したん? ガークや領主の私兵が到着したのは今日だったはずなので、それまで頑張った冒険者たちだし、臭いとか無粋なことは言わない……けど、あ、ダメ。臭すぎる。
冒険者たちから距離を取りながら二つ名について文句を言う。
「ただの……普通にカエデだけだから。土下座とかウルフとかタダノとか要らないから。そこは、よろしく!」
「お、おう……」
「ん。あと、これあげる」
「布?」
返事をした冒険者の一人がログハウスで見つけていたどこかの代理店の粗品タオルを困惑しながら受け取る。
ユキもうどんも臭いは特に気にしてはいない。どちらかというと、うどんはウズウズした顔を見せる。
「うどん、やめて。あれは洗濯物じゃないから」
「キュワーン」
そんな悲しい声を出しても、スパイシースメルダイブは禁止だって。
「カエデ、何をやっている。早くついてこい」
「今、行く。ほら、うどん、行くよ」
ガークに案内されたのは、冒険者たちの野営地から歩いて十分ほどの離れた場所だった。
数カ所に設置されたティピーは、ロワーの街の領主が今回のために私兵に貸し出したものらしい。
ティピー泊、一度だけしたことがあるけれど……あれはグランピングだった。
豪華にお肉を焼いてワインを嗜みながら、夜は寒いねって暖房をつけてフカフカのベッドに寝るという記憶のせいで変に期待が膨らむじゃん? でも分かっているから、目の前のこれはリアルティピー。
辺りには領主の私兵だと思われる装備の揃っている人たちが行き来している。ユキとうどんを驚いた表情で凝視する彼らは、先ほどの冒険者たちよりも疲れもなく汚れも少ない。
一つのティピーの前でガークが足を止める。
「この一つは冒険者ギルド用だ。ここなら、ゆっくり話ができるからな」
ティピーの中に入ると、やっぱりと言っていいほど殺風景。小さな置き台に簡易な椅子、それから地べたの干し草の上にはブランケットが敷いてあり数人が寝泊まりできそうだ。
まぁ、今日設置したには悪くないじゃん。
「ガークはここで寝泊まりするん?」
「重傷者が出れば外で寝る予定だ。ローカストは人にはほぼ攻撃しない魔物だが、農作物には遠慮なしだ」
「まだ小さな群って聞いたけど」
「群れは小規模だが、今回のローカストはいつもより大きい。見てみろ」
「え?」
小さな置き台に前置きなしにガークが手の平より大きなバッタの死骸を投げてきた。
ベチョっと音と共に目の前に叩きつけられたバッタから青緑の血が靴に飛び散る。
やめて!
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