面と向かって仮面と顔面

 冒険者たちを掻き分け先頭に出てきた男に手を振りながらガークの名を呼ぶが……無反応。  

 あれ? なんで? 

 この距離からは暗くて顔まで見えないけど、声からはガークだと思うんだけど……男は完全に停止してこちらを凝視している。


「全然顔が見えないけど……」

「敵なの?」

「多分知り合いだから、攻撃はなしで」


 分かったと背中に戻り隠れるオハギ。

 ギンはレッツゴーと掛け声を出しているので、先頭の男に敵対心はないはず。

 少しずつ男に近づけば、顔面凶器が薄っすらと見えた。


「やっぱりガークじゃん!」

「本当に……カエデなのか?」

「うん、私」


 ゆっくりこっちへ向かってきたと思ったガークが急にダッシュで目の前まで詰め、あっという間に抱き上げられる。


「お前! 生きていたのか!」

「あ、ちょっと! やめて、下ろして!」

「おい、下ろすから蹴るな!」


 地面に足がついた途端、再びガークに片腕を回され頭をシャカシャカ撫でされる。


「ガーク、苦しいって!」

「どれだけ俺たちが心配したと思ってるんだよ。何が『おーい』だよ。全くお前は!」


 言葉の内容とは違い嬉しそうに文句を言うガーク。


「心配をかけてごめんなさい」

「お、おう。なんだか素直に謝られると拍子抜けするな。ここに来たってことは、ギルド長にはもうあったんだな?」

「うん。討伐の依頼できた。ってか一斉にいきなり攻撃とか流石に酷くね? 警告なしで攻撃されたんだけど」

「お前……自分が暗闇でどんな姿だったのか見えてねぇからそんなこと言えんだろうが、側から見れば完全に魔物だからな」


 ガークたちには、私のコカトリス姿はキラキラ光るユキたちに照らされはっきりと鳥の魔物に見えていたらしい。ガークはユキとうどんに見覚えがあり、まさかと思い攻撃の停止を命令したそうだ。

 ギンからコカトリスの仮面を出し、うどんを踏み台にして背後からガークに被せてみる。

 驚きながら振り向いたガークのコカトリス姿。これ、リアルに暗闇では怖い。


「確かに化け物だね」

「おい! 何勝手に被せてやがる」


 仮面を取り外したガーク。仮面の表面を訝しげに調べながら表面をノックしたと思ったら、短剣を出しいきなり軽く刺す。


「あ! ちょっと! それ、一応頂き物だから刺すのやめて」

「お前……これが何か分かってんのか?」

「コカトリスだけど」

「それじゃねぇよ。この仮面の素材の話だ」

「えーと、木?」


呆れた顔のガークが仮面を見ろと言う。ユキの光で照らされた表面には先ほどガークに刺された傷はない。あれ? 結構グサッと刺していたんだけど、なんで? 凹んでもないし。

 そういえば、サダコはコカトリスの説明はたくさんしたけど……仮面の素材や機能については特に何も言っていなかった。でも、この木の感じ、多分あの倒れた精霊樹だと思う。


「お前、これ相当ランクの高いトレントだろ」

「は? そんな名前じゃなかったと思うけど、頂き物だから詳しく知らないし」

「……言いたくないなら詳しくは聞かねぇ。ともかく、他の奴らに紹介するからさっさと付いて来い。その仮面は被るなよ」


 ギンに仮面を収納、ガークに続いて歩く。


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