パワー

「カエデさんならその依頼を受けてくれると信じていましたよ」


 マルゲリータが満足そうに微笑む。

 消去法でこの依頼になっただけなんだけど、なんだかどちらにしてもバッタの討伐依頼を受ける羽目になっていたような気がする。


「では、明日にでも向かいます」

「カエデさん、できれば今から向かって欲しいのよ」

「え? 今から?」

「それだけ早期に解決をお願いしたいのよ」


 ロワーの街に戻ってきて2時間も経っていないんだけど……マルゲリータは、私が今から出立することが決定事項かのように話を進め始める。

 別にいいんだけどさ、1年近くのギャップを少しくらいは埋めさせて! マルゲリータ以外のみんなの近況とかをさ……。

 依頼を受ける手続きをその場でさっさと済ませ『良い結果を期待しています』と依頼書を渡してくるマルゲリータを半目で見る。


「分かったけど、先にユキたちの食べ物を確保していくから。その後に出発する」

「現地では領主の私兵、またはガークに詳しい状況を尋ねると良いですよ」

「うん。双子やイーサンたちに先に会いたかったんだけど、伝言を残せる?」

「……イーサンとあの子たちなら1カ前にロワーを旅立ちましたよ」

「えええ! そうなん?」


 てっきりまだロワーにいると思ったけど、1年近く経ってたらそりゃ同じ場所にいる保証なんてない。

 双子、親類を探しに行ったんかな? 1カ月ならそんなに前ではない。


(あの時、双子に金貨渡しておいてよかったじゃん)


「カエデさん、双子は貴女を探す目的で銅級に昇格した次の日にガーザに向かいましたよ」


 え……私を探すため?

 双子は私が予定より1カ月以上戻らなかったことから、3日掛かるガーザの街まで探しに行くと飛び出そうとしたのをイーサンに銅級になるまではダメだと止められたらしい。

 そういや、ダリアたちをガーザまで送ると嘘をついて出立していた。あの時は普通に2週間で戻る予定だったし。

 イーサンは師匠として双子の面倒をちゃんと見てくれたみたいで良かった。やるじゃん、イーサン。


「双子は今もガーザにいるの?」

「銅級は定期的に依頼を受ける必要がありますので、その可能性が高いでしょう。カエデさんがローカスタ討伐に行っている間にガーザの冒険者ギルドに尋ねておきましょう」

「連絡してくれるん? ありがとう!」


 礼を言い、早速バッタ討伐に向かうために執務室を退室しようとドアに手をかければ——ドンッと物凄い勢いでマルゲリータにドアを閉められる。


「え、なんで?」


 マルゲリータの目がいつかのギラギラしたものに変わったのに気付き、ドアを開けて逃げようとしたがビクともしない。なんで?

 下を見れば、マルゲリータが足でドアを食い止めていた。


「えええ。ちょ、足の力強すぎじゃね」


 近距離まで顔を近づけたマルゲリータが尋ねる。


「カエデさん、その子猫はどこから連れてきたのかしら?」


 

 



 

 





いつもご愛読ありがとうございます。

書籍版をご購入の方は徐々に違和感を感じる場面が増えますので、今後こちらの作品は【Web版】とさせていただきます。


よろしくお願いいたします。

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