過去のひとかけら

「は? 子猫?」

「カエデさんの背中に憑いているその子猫ね。以前はいなかったわよね?」

「オハギのこと? なんでいきなりそんなことを聞いてくるん?」


 振り向いた時に背中に隠れていた子猫の姿になっているオハギが見えたのか。

 オハギを見つけた場所は迷いの森だけど……それを伝えれば、なんでそこにいたか根掘り葉掘り尋ねられそう。


「オハギちゃんというのね。可愛い名前ね。あなたはどこから来たのかしらね」


 ニッコリと微笑みながらマルゲリータが持っていたヒラヒラしたハンカチを振ると、オハギはそれをペシペシと叩き始めた。

 うどんも遊びたそうにウズウズと尻尾を振りながらハンカチを見つめる。二匹ともこんな初歩的なテクで懐柔されないでほしい。


 オハギはいつの間にか付いてきたと誤魔化しながら部屋を出ようとしたが、マルゲリータにまたも妨害される。ちゃんと話すまで扉の前から動かないつもりなん?

 マルゲリータがグッと顔を近づけてくる。


「この子を見つけた場所はどこであろうと問題にはしませんよ。大体の予想はできていますから。ただ、確認したいことがあるのです」

「なんでいきなりこのことに詰め寄ってくるん? 今までもギンの存在とか気づいていたみたいだけど何も言わなかったじゃん」


 マルゲリータは扉を妨げていた足を下ろしスカートを整えながら言う。


「その子は以前、別の方に憑いていたのを見たことがあります。その方は死の森に入ったきり現在行方不明です」

「え? そうなん?」

「はい。ですので、彼に何があったのかをこの子猫ちゃんに尋ねたいのよ」


 それは、オハギに関しての新しい情報だ。以前も人と共にいたのか。でも、肝心のオハギは現在絶賛記憶喪失中。


「オハギ、何か覚えてる?」

「うーん。うーん。分からないの!」


 マルゲリータから奪い取ったハンカチをケリケリしながら遊ぶオハギ。可愛い。

 可愛いけど、そろそろハンカチが切り裂かれそうだ。


「実は、オハギは今、記憶喪失中で何も覚えてないみたい」

「……カエデさん、貴女、やはり彼らと意思疎通が取れるのね。そのような気はしてたのですが……」

「え?」


 マルゲリータは妖精が見えるだけで会話はできないらしい。尋ねたいと言ったのは、私の今までの様子から意思疎通を取れるのだろうとカマをかけたらしい。それから子猫のオハギの姿は見えているが、ギンはボヤッとした青い光にしか見えないらしい。オハギの方が強い妖精だから? 

 オスカーには、ギンのキノコ姿は見えていたし、声も聞こえていた。二人の違いはなんなんだろう。


「しかし、記憶喪失とは……彼らにもそんなことが起こるのですね。詳しいお話ができればよかったのですが……」

「私も詳しいことを聞きたいけど、とりあえず今は日が沈む前に依頼先へ到着したいから」

「ええ。戻ってからまたお話ししましょう」

「うん。じゃあね」


 今度は無事マルゲリータの執務室を退室する。冒険者ギルドを出るとビリッという音がオハギからする。


「あ、ハンカチ破ってんじゃん!」








いつもご愛読ありがとうございます。

近況でもお伝えした通り、がうがうモンスター様アプリ先行にてコミカライズが配信中です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る