殿様
マリナーラも執務室から退室してマルゲリータと二人きりになる。
マリナーラが退出してから一言も発さずお茶を入れ始めたマルゲリータ。無言の圧がツラいんだけど。やめて。
ギンはマルゲリータに愛想を振り撒きながら手を振るが、オハギは背中に隠れたまま出てくる様子はない。ユキとうどんは、床に敷いてあるふわふわのラグに腰を下ろしてリラックスし始めた。
(長居するつもりはないんだけど)
私の目の前にお茶を置きながらニッコリと微笑むマルゲリータ。
「蜂蜜、多めに入れておきましたよ」
「あ、ありがとう」
「そんな顔しなくとも大丈夫ですよ。カエデさんがこの一年、どちらへいらっしゃったのかは詮索いたしませんよ。冒険者のほとんどが放浪者のようなものですからね」
「ありがとうございます」
そうしていただけると、とても嬉しい。ホブゴブリンの村は外部には秘密にしたいし、謎のタイムトラベリングの説明をしたところで信じてもらえるか分からない。自分でも一年近くもの時間経過のダメージを受けたことはさっき知ったし、実際、細かくは何が起こったのかを把握していないのだ。分かっているのは瀬戸楓(28)から瀬戸楓(29)にアップグレード、カツ三十路がすぐそこに迫っているということのみ。
「それより問題は銀級タグの更新ね。まさか本当に失効寸前まで更新を待つとは……困りましたね」
「数日以内で銀級の依頼ができそうな依頼はありますか?」
「すぐにでも向かってほしい依頼はいくつかあるわ」
マルゲリータが先ほどマリナーラが置いていった資料を手に取り、私の目の前に置く。
資料は4、5枚ほど。一択だけじゃないのはありがたいけど、内容を見ない限りなんとも言えない。どれかは受けないといけないのは分かっているけれど、できれば穏やかな依頼がいい……そんなの淡い夢だろうけどね。
とりあえず一番上にあるスライム討伐の依頼はひっくり返し資料から離れたところにおいたが、すぐにマルゲリータがその依頼書を元に戻す。
半目でマルゲリータを見ながら、もう一度スライム討伐の依頼書を裏返すが……目にも止まらぬ速さで、マルゲリータが再び資料の一番上にスライム討伐書を置いた。
「やらないって……」
「今回も倍の報酬をお支払いいたしますよ」
「残念だけど、今はスライムの魔石一個も持ってないから」
残念そうにするマルゲリータにスライムの依頼書を突き返す。
「残念ですが、今回はスライム討伐のお願いを諦めます。でも、2枚目の依頼書は切実に受けていただければと思います」
銀級 ローカストの群れトウバツ 銀貨五枚【ポイント40】
ローカストって何? 群れってのも気になるけど、報酬もポイントも高い。ポイントなんかテロリストスライムの倍だ。
「ローカストって何?」
「裏に姿絵があるので、ご覧になって」
依頼書を裏返すとデカいバッタの絵があった。頭で考えるより先に口が動いた。
「ノー」
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