強者
途中からなんとなくこの部屋に向かっていることには気づいていた。どうせ、マルゲリータにも帰還の(?)挨拶をする予定だった。だから、この部屋に連れられたことは別にいいんだけど…….なんか、罠にハマった鼠の気分。
前置きなしに罠に連れてきたマリナーラにジト目を向ける。
「あー。私も普通に案内しようとしたんです~。でも、逃げるかもしれないからって言われて~」
「別に逃げなんかしないって。ちゃんとマルゲリータに顔を出す予定だったし」
「分かりました~。では、ご案内しますね~」
マリナーラが執務室の扉を軽くノックすると「どうぞ」とマルゲリータの声が聞こえ背筋がムズムズした。
「ギルド長、マリナーラです~。銀級冒険者カエデさんをお連れしました~」
マリナーラの口調はマルゲリータの前でも変わらないようだ。
オハギが急いで背中に隠れる。
街に入ってから、オハギはほぼずっと私の背中に引っ付いている。ギン同様、ほとんどの人に妖精のオハギは見えないのだが、マルゲリータは別だ。何度もギンを目で追っていた。オスカーと同じで妖精が視える人なのは確実。
「失礼しま~す」
マリナーラの後に続き執務室に入室しようとしたが、何か寒気がして躊躇する。
「あら、カエデさん。どうしたのかしら。遠慮せずにお入りなさい」
「は、はい」
そろりと執務室に入り顔を上げると、マルゲリータが安心したように穏やかに微笑み、椅子に座るよう促される。
「無事に生きていて安心いたしました」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「そうですね。冒険者タグの更新がなければ、高い可能性で死亡したのだろうと考えていましたよ」
それは困る。というか、冒険者タグが失効してなくて本当に良かった。
マリナーラが執務室の机に資料を置き、報告する。
「銀級の依頼、一応集めました~。緊急性が高いものから順に並べましたけど~」
マリナーラがチラッとマルゲリータに視線を移し黙る。
「マリナーラ、ありがとう。しばらく二人でお話をするので、ここには誰も通さないようお願いするわね」
「は~い」
「それから、身だしなみは気をつけなさい。タイが曲がっているわ」
マルゲリータがマリナーラのタイを整える。二人とも背丈は同じほどの高さで小柄。並べば、横顔が似ている。そう言えば、マリナーラから感じたあの鋭い眼光——
あ、と声を出すと二人して同時にこちらを振り向いた。
「そっくりじゃん」
「あら、気づいたかしら? マリナーラは私の孫なのよ」
「うん。並ぶと似てる」
「ふふ。そうでしょう? 孫の中で私と一番似ているのよ」
外見の話だよね?
マルゲリータがもう一人とか勘弁。
マルゲリータの今の顔は完全に孫を自慢するお婆ちゃん。
「前はいなかったよね?」
「そうね。依頼の増加と共にこの街にも新しい冒険者が増えたのですよ。そのため、急遽少し手伝ってもらっているのよ。ね?」
「半ば強制的でした~」
「あらぁ?」
ギラっとマルゲリータの目が光る。
マリナーラはビクッとして先ほどの発言を訂正する。
「お手伝い楽しいです~。お金は割り増しでもらえてます~。最高のお祖母様です~」
脅しじゃん。自由そうなマリナーラでも、このマルゲリータ圧力には頭が上がらないか……気持ちすんごい分かる。
いつもご愛読ありがとうございます。
本日4/10、3巻の発売日です。
よろしくお願いいたします。
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