張られた罠
マリナーラから冒険者タグを調べにどこかへと消えてから10分ほど受付で待っているが一向に戻ってこない。なんで?
この謎の待ち時間、することもないのでユキとうどんも足元で丸くなって寝てしまった。
後ろに並んでいた冒険者たちも我慢が出来ずに隣の受付へと移動する。
肩から降りたギンが受付に置いてある羽ペンの羽根を指さしながらおねだりする。
「カエデ、これこれ~」
「ん、ギンそれは他人の物だからダメだよ。羽根が気に入ったのなら、別の羽ペンを買ってあげるから」
少しして、初めて見る冒険者だろう厳つい男がギルドに入って来た。男は受付の列を見ると明らかに面倒そうな顔をし、文句を言いながらこちらへ向かい尋ねる。
こっちに来なくていいし……。
「おい、なんで今日に限って一列しかねぇんだよ。ねぇちゃん側の受付はどこ行ったんだよ」
「調べものしてるけど、すぐに戻って来るんじゃない?」
「ああ? ねぇちゃんの所為で一列なのか?」
「なんでそうなるん?」
ニヤニヤしながら難癖をつける厳つい冒険者の男。
(ああ、そういことか)
いつかの懐かしい難癖パターンじゃん。
冒険者ギルドは一年経っても変わっていないようでなんだか安心。
普段ならユキの存在で変なやつに絡まれることは少ないけれど、厳つい男、多分丸くなっているユキたちが見えていない。
ここはユキに軽く威嚇でもしてもらおうかと思ったら、マリナーラの緩い声が受付カウンターから聞こえた。
「大変長くお持たせ致しました~。あれ~アンドレさ~ん、何してるのですか~?」
「げっ。いや、なんでもない。依頼の終了報告に来ただけだ」
「そうですか~。お疲れ様です~。それならこちらの受付はしばらくお時間が必要なので隣に並んで下さ~い」
「隣の列だと時間が掛かるだろ。どうせなら奥にいるいつもの可愛い子を呼んでくれよ。な?」
「アンドレさん、お時間が掛かるので隣に並んで下さ~い」
マリナーラが苦手なのか、急に態度が小さくなったアンドレと呼ばれた厳つい男。いつの間に私の隣にいたマリナーラは、無表情でアンドレが隣の列に並ぶのを待つ。ってかいつの間に隣に来た? 全然分からなかったんだけど。
「ちっ、分かったよ」
大人しく隣の列に並ぶアンドレ。今までにない平和的な解決だった。
マリナーラ、凄いじゃん。
礼を言おうと思ったら、マリナーラが床に尻を付けユキの前に座っていた。
「これ、フェンリルですか~?」
「うん」
「可愛いですね~。触ってもいいですか~」
「ユキは自分もうどんも触られるの苦手だから」
「ユキちゃんとうどんちゃんって言うのですね。残念ですが諦めます~」
モフモフできなかったのを残念そうにマリナーラが受付のカウンターへと戻る。
「こちらの冒険者タグをお返ししますね~。有効期間はあと15日です~。早く銀級のクエストをしなければ期限切れになります~」
「ギリギリじゃん!」
「ギリギリです~。でも、丁度いい依頼を先ほど一緒に探してきました。そのことについて詳しく別室でお話させていただいてもいいですか~?」
「うんうん」
話し方に癖があるけど、マリナーラ結構仕事できそうじゃん。
マリナーラに案内され別室へと向かう。
「こちらにお入り下さ~い」
「……いや、これマルゲリータの執務室じゃん!」
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