シン カエデ
「噓でしょぉぉぉぉぉ」
そう、しばらく叫ぶとロワーの街の検問所の前で蹲った。
18から急に20になるのはそこまで問題はない。だが、28から飛んで30になるのは私の中では大問題。貴重な最後の二十代が鼠の爆発で削られたってのも残念さに拍車がかかっている。完全に巻き添え被害だし。
「30、嘘でしょう……」
「カエデ、大丈夫だえ~?」
「カエデ、何か食べて元気出すの!」
うどんにも額をペロリとなめられる。ユキちゃんは……スルーかよ! 明後日の方向見てるし!
ロワーの街の周りの風景は出発時とさほど変化はない。1年の経過……って、あの爆発恐ろしいって! マジカルパワー怖いって!
爆発後に爪が伸びた時に違和感はあった。それに、そのあと、ホブゴブリンの村の外で結界を齧っていたハデカラットも全て白骨化になって見つかっていた。違和感はあった! あったんだけど、いつものマジカルタイムだと流した。
ホブゴブリンたち? あの人たちは、人と時間の流れが違うから数年過ぎたとしても気付かなそうじゃん。90年くらい前を『そんなに前じゃない』って言っていたし……。
それにしても1年は痛い。一気にMISOJI前。最悪だし。
頭の中で3030303030303030と聞こえると思ったら……
「ギン、オハギ……30の歌を歌うのやめて」
「だえ~?」
「ダメなの?」
「うん。今日は心のダメージが酷いから労って欲しい」
本気でしょんぼりしていると、ギンとオハギが私の顔に身体を寄せる。
「ナデナデだえ~」
「スリスリするの!」
あー、二人に交互にナデナデとスリスリをされて気持ちい。不安と悲しい気持ちも飛んで行く。これ、モフモフ天国じゃん。
「おい! カエデ! お前いつまで門の前に座ってやがんだ! 早く冒険者ギルドに生存の報告に行けって。そこにいられても邪魔だ!」
ゆらゆらと揺れていたら、ゲオルドから呆れたように大声で怒鳴られモフモフ時間が終了した。ゲオルドにジト目を向けると、後ろを見ろと指をさされる。
振り返れば、検問を受けようと並んでいる親子が警戒した顔でこちらを見ている。
「ごめんなさい。今、移動します」
後ろの親子に検問を滞らせたことを謝罪して、ゲオルドより少し若い門番の前へ向かい冒険者タグを出して止まる。
「あ……これってまだ有効なの?」
「銀級なら1年は有効だろ。なんだ? 他の街で更新しなかったのか?」
「あーいや、ちょっと忘れていて……」
「……タグを調べるからここに置け」
門番に言われた通りにタグをトレーに載せる。
銀級のタグの有効期限が切れていたら冒険者試験からやり直しなん? そんなことになったら本当に泣く。
不安そうに見つめていた門番が軽く頷く。
「良かったな。まだ有効期限内だ。期限の詳細は冒険者ギルドで聞いてくれ」
「よし! ありがとうございます」
ガッツポーズをしてゲオルドに視線を移すと、ジロッと睨まれる。私が門をくぐるまで見張るかのように腕を組んで仁王立ちしてるんだけど、そんなことしなくてもちゃんと冒険者ギルドには行くって。
門番がソッとタグを返し、声を潜め言う。
「隊長はあんな感じだが……その、あんたを心配していたのは本当だ」
「あれ、心配……からかな?」
「まぁ、今は怒りの方が強いが……隊長はああ見えて子供には甘いので有名だからな」
「子供……」
いつもだったら言い返すけれど、ゲオルドの急かすような視線から早く逃げたいので門番に礼を言い、さっさと門をくぐる。
ゲオルドにも門をくぐったよと裏ピースサインを送る。すぐにそれが卑猥なジェスチャーだと思い出したが、時はすでに遅かった。
「おい! なんだそれは!」
「ゲオルド、またね! バイバーイ!」
ゲオルドに説教される前に急いで門から走り去る。
お休みをいただいておりましたが、本日からまた再開させていただきます。
3巻の発売まであと一週間となりました。カエデの一瞬の一年ほどではありませんが、なんだか時間があっという間に進みますね。
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