早すぎる別れ

 部屋の中心にある木造の螺旋階段を下りると、天井から玉がぶら下がる左右対称の黒白の部屋へと到着した。部屋の中心には大きな割れ目の入った黒いガラス玉のような物もある。


「何ここ?」


 ん? 玉の中に何かいる? よく見れば、玉の中で眠るように入っているのはホブゴブリンたちだ。サダコが急に大声で叫び、奥の玉に一直線に向かう。


「ホブゴブリン!」


 玉は薄い皮のようなもので包まれており、サダコがナイフを刺せばすぐに弾けた。破れた玉からは、ホブゴブリンがズルリとそのまま地面へと落ちうめき声をあげた。  

 地面に横たわるホブゴブリン。あ、これ兄ホブゴブリンじゃん! 良かった。生きていて。

 サダコが兄ホブゴブリンの無事を確認して心底安堵した表情を浮かべる。

 兄ホブゴブリン、可能性ゼロじゃないじゃん。よかったね。

 ぶら下がっていた玉の中にいたホブゴブリンたちを全て解放すると、部屋の壁に亀裂が入り始める。

 最後に残った部屋の中心にある大きな黒い玉の前に立つ。


「どう考えても、これがイシゾウだよね」


 黒いガラス玉に触れると急に辺りの景色が草原に変わる。

 えぇぇ?

 ギン、オハギ双方の姿もだが、左手に掴んでいたミールの姿もない。 どうしようかと、草原を見渡していたらイシゾウの声が頭に響く。


【カエデ。やはり其方が来たか】

「イシゾウ! 無事だったんだね」


 イシゾウの声は聞こえるが姿は見えない。


【カエデ。よく聞きなさい。このダンジョンはコアが壊れる寸前だ】


 イシゾウが説明するには、コアは過多なエネルギーで急成長させられたのに耐えれず抑制のきかない暴走を始め消滅しようとしているらしい。消滅には大きなエネルギーが伴い外側もその影響を受ける場合があるという。なにそれ、凄い迷惑。


「消滅の影響ってどういうこと?」

【このコアはミールの力が長年に渡り注がれたようだ。あれの気配をあちこちに感じる。あれは厄介なことに転移と時間の魔法を得意とする妖精だ】

「は? 転移は知っていたけれど、時間って何?」


 イシゾウの長い話が始まったが、要約するとミールは時間を進めることのできる妖精らしい。なんのためにそんな能力があるのかは知らないが、そのおかげで実年齢よりも長い期間存在しているという。


【外に脱出する扉を開くので、皆を連れここから出なさい】

「ん? イシゾウは?」

【私はここで最後までコアを抑える。同じ妖精だとミールとの闘いを避けていたツケだ】


 は? ここに残るって……ダンジョンコアと死ぬってこと?

 なんでイシゾウがミールの尻拭いをしないといけないの? おかしくね?


「そんなのミールにさせればいいじゃん」

【あれでは力不足だ。それにあれもまたここと同じ道を辿る運命だ】

「他の方法だって――」

【その時間はない】


 納得がいかない。ミールが悪いのになんでイシゾウが……ジワッと悔し涙と鼻水が出る。


【そんな顔までキヨシにそっくりだ。やはり、二人は似ている。そう泣くな。妖精は自分の最期が分かるものだ】

「嘘つきじゃん。前は十数年あるって言ったじゃん」

【カエデの言う通り『お年寄り』だからな。小さな誤差だ】

「だから、人の思考を勝手に読まないでって……」


 あふれる涙を手で拭きながら笑う。


【時間だ。早く行きなさい。最後にカエデに会えてよかったよ】

「イシゾウ……ありがとう」

【うむ。また、いつか会おう】

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