因果関係
ギリギリの脱出。あのまま、あの空間に残っていたらカエデとサダコの終了のお知らせだったね。
立ち上がり辺りを見渡す。私たちがいるのはどうやらコンクリートで作られた廊下。やけに狭く低い場所だ。右は行き止まり――
ん? 顔を顰めながら行き止まりをもう一度確かめ、サダコの袖を引っ張り確認。
「ねぇ、あの行き止まり……こっちに向かってきてない?」
「……向かって来てます!」
迫ってくる行き止まりの壁とは逆方向に走る。進む廊下は、奥に行くほど徐々に狭く低くなっていく。狭いのは苦手なんだけど!
それでも全速力で廊下を走ると、螺旋階段がある広い場所に出た。階段の上は途中で切れているので上がることは不可能だが、下には行ける。
ガタンと背後から崩れる音が聞こえたと思ったら、先ほど走って来た廊下は消えていた。髪を掴んでいたミールを持ち上げ問い詰める。
「これ、どういうこと?」
【もう少し、私を丁寧に扱ってくれないかしら】
「もったいぶらずに答えてくれる?」
ミールを地面から抜いた瞬間から明らかにダンジョンが崩壊しているように思う。絶対、このクソ妖精は原因を知っているはず。
ミールが諦めたかのように不貞腐れながら小さな声で言う。
【まさか、こんなにダンジョンが急に巨大になって制御できなくなるとは思わなかったのよ】
「何をしたん?」
【大したことないのよ。ほんのちょっとダンジョンコアの成長を手伝っただけよ】
ダンジョンコアは、この空間の心臓のようなものだとサダコが説明する。ミールはどうやら今まで取り込んだ他の妖精の力を一気にダンジョンコアに注いだ結果、急成長したダンジョンに逆に取り込まれたらしい。消えた下半身はすでに取り込まれてしまったということだった。
――この妖精、もしかしてすごくバカなの?
ミールを抜いたことでその周辺を保っていたエネルギーがなくなり、崩壊が始まったってこと? 最悪じゃん!
「でも、待って。それなら、今立っているこの場所はなぜ崩壊してないの?」
「他に供給源が……」
サダコがそう言って黙る。
他の者の強いエネルギーを吸収している……イシゾウの顔が頭を過ぎる。
【まさか、すぐに地上に向かって暴れるとは思っていなかったのよ。まぁ、長老は排除したかったけれどまさかこんなに早く取り込む――】
サダコの短剣がミールの喉に刺さると、ぐぇという音が聞こえた。怒り任せにメリケンサックのグリップの付いた剣を向けるサダコを止める。
「なぜ、止める! これのせいで長老様は!」
「待って待って。このクソ妖精は『取り込む』っていった。今までイシゾウに勝てなかったこの妖精だってまだ下半身しか取り込まれてないのに、イシゾウがそれより劣ると思う?」
「確かに……そうですね」
サダコがメリケンサック剣を下ろし、苦情を言い続けるミールを睨みつける。
【乱暴娘に野蛮娘、下等生物は嫌だわ】
このクソ妖精……ダンジョンの糧でさえなければ、とっくにどこかに捨てていくんだけど。不本意だけど今は持ち歩くしかない。
ミールが頭に響くキンキン声で文句を言うのを黙らせるために、掴んでいた髪をくるくると回し地面にミールを顔面から叩きつけた。
「静かにして」
ジロリとこちらを睨んだミールだったが、どうやら静かにする気になったようだ。
右手首を確認すると痛みは完全に引き、指を少し動かすことができた。更に不思議水をがぶ飲みすると、再び少し揺れを感じた。
ここにも崩壊の波が訪れる前に次に進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます