ミールの手助け

「それで、オハギとギンちゃんはこの扉について何か分かる? 出来れば開けたいんだけど」


 ギンがオハギに乗り、一緒に黒い扉の前に立つ。オハギが前足でツンツンと扉を触ると助走を付け扉に体当たりを始めた。グギグギとまるで骨が擦れるような鈍い音がする。


「ちょっと! オハギ! 何をしてるの!」


 オハギを猫掴みで急いで止め、体当たりをしていた箇所を調べる。妖精は頑丈なので怪我はしていないようだけど、ここでは精霊魔法だって弱体化している……頑丈さだって弱体化しているかもしれない。

 そんな私の心配をよそにオハギが無邪気に笑う。


「見て、これで開くの!」


 オハギが示した黒い扉の部分は少し剥がれ、白く光っている。剥がれ落ちた場所の隙間を覗けば、扉の反対側が見えた。外ではない。コンクリートの部屋のような場所だった。隙間をスパキラ剣でこじ開けようとしたが、簡単に扉に跳ね返された。


「行くの!」

「やめて!」

「開けるの!」


 助走しながら再び扉に特攻しようとするオハギを止める。先ず、ギンちゃんを頭に付けて危ないことしないで欲しい。次に――


「それやるの、別の適任者いるし」


 振り返り、ニタァと笑った私と目の合ったミールが嫌な顔をする。


【本当に野蛮な顔ね。一体何をするつもりなの】

「ほら、自分ならここを開けることができるって言っていたじゃん。お出番ですよ」


 頭が割れても死なない存在。ミールの首だけ斬って使おうかと思ったけれど、ぶつけるなら面積が広い方がいい。

 サダコと協力、ミールを抉るように地面と共に取り出すと激しく辺りが揺れ地面のあちこちが灰になり始めた。急いでミールに絡まっていた粘着力の高い筋肉質のような地面を引き剥がすと、現れたのは上半身のみだった。


【放しなさいよ】

「えぇぇ。残りの身体は? いや、それよりも」


 半分だからって関係ない。ミールの髪を掴み黒い扉の前に向かう。


【ちょっと! 何するつもりなの! この、下等生物が!】

「いくよ!」


 ボガァボガァと何度も何度も半分のミールを黒い扉に打ち付けると、人がひとり通れそうな穴が開いた。上手く行ったね。


【あなた、顔だけじゃなくて中身も野蛮なのね】


 ミールが澄ました顔で言う。

 やはり妖精は頑丈。ミールは下半身がないこと以外は特に大きな怪我を負ってはいない。強いて言えば髪が乱れたくらい? 再び地面が揺れる。後ろを見ればボロボロと灰になった天井が降ってくる。


「みんな、早く通るよ!」


 サダコを最初に穴に押し込み、その後に全員で続いた。通り抜けた反対側の床の上にミールの髪を掴んだまま転がると、こちら側のコンクリートの壁に開いた穴は自然と塞がっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る