妖精の喧嘩

 ミールは一旦再び放置。黒い扉を何とか突破しようと試行錯誤するサダコに状況を尋ねる。


「どう? 行けそう?」

「剣はどれも全く歯が立たないです。扉の文字も初めて見る物で解読は厳しいです」


 大体やれることは全部やった。詰んだとは思いたくないけれど、よろしくはない。別の出口を探すにしろ、同じように扉を開くことができなければ意味はない。


【私ならそこを開けることができるわよ】

「うるさいって。どうせ、嘘なんでしょ?」


 黒い扉を座りながら睨むこと更に十数分。解決法はまだない。考えろ。カエデ。

ミールが引き続きごちゃごちゃと何か言っていたのは、今は完全にブロック。サダコも剣の鍛錬をしながらミールの戯言から意識を逸らしている。

 深呼吸をして扉を開ける方法一点に思考のすべてを集中する。物理的攻撃や魔法攻撃でないもの。元々ダンジョンとは何で出来ているのか? サダコによると妖精がダンジョンの力になると言っていた。妖精の力……妖精の攻撃なら効く?


「カエデ~」


 ハッと目を開け肩に視線を移せば、ギンとオハギが起きていた。


「ギンちゃん! 大丈夫だったの? 心配したんだから」

「力不足だえ~」


 聞けば、どうやらギンとオハギはあのムカデ槍の生成に協力するために力を注ぎ、まだ幼いギンは力を消費し過ぎてスリープ状態に入ったようだ。オハギがギンに力を分け与えことで、これだけ早く元通りのギンに戻ったということだった。


「ギン、そんな変な無理はもうしないって約束して!」

「約束するだえ~」


 ギンに頬ずりをする。本当に良かった。今までもギンが夜寝るときに停止することはあったけれど、今回みたいに急に停止することは初めてだった。


「オハギもいるの!」

「うんうん。オハギもありがとう」


 背中を撫でると、オハギが目を細め喜ぶ。毛並みいいな。

 オハギが手元から離れ、ミールの元に向かい尻尾で顔をぺシぺシと叩く。


「この妖精、悪いの!」

【あなた……なんなの! 以前のあなたとは――あなた、誰なの?】

「オハギなの!」


 ミールが困惑した顔で楽しそうに笑うオハギを凝視。中性的な綺麗な顔が鋭く歪み叫ぶ。


【狂ったの? だれもあなたの名前なんか聞いてないわよ! あなたのせいで私はこんな姿になったのよ!】


 ミールの感情と頭に響く声のボリュームで頭痛がする。ちょっと、勝手に人の頭の中で叫ぶのやめて。周りを見れば、影響を受けているのは私だけ。それもそう、私以外は全員妖精関係だった。


「大丈夫だえ~」


 ギンが私の頬に触ると、ミールから流れてきた負の感情と頭痛が落ち着く。

 ちょっと情報量が多い。整理をするために、まともに答えてくれるかは分からないけれど……ミールとオハギに質問をする。


「ミール。オハギのこと、何か知っているの?」

【こんな、腑抜け知らないわよ】

「あっそ。オハギは? なにかこのクソ妖精のことで覚えていることある?」

「クソ妖精、悪い妖精なの!」


 2人が睨み合いからの言い合いになる。内容は腑抜けと悪い妖精しか聞こえないが、喧嘩が加速するとオハギが尻尾攻撃を放ち、ミールは対抗して唾攻撃を始めた。


「話にならないし」


 サダコ、ギンと共に唾の当たらないところまで避難する。しばらく幼稚な戦いを静観したが、喧嘩は止まりそうもない。


「オハギ、もうやめて。今はそれよりも重要なことあるから」

「分かったの!」


 オハギが両後ろ足でミールの顔を蹴り、こちらに戻り私の肩に乗るなり毛繕いを始める。本当、自由過ぎるって。

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