玉付き

 恐る恐る、ロボットのようなぎこちない動作で左肩に何がいるのを確認する。


 左肩で激しく宙に浮いて回転していたのは宝石のような黒い玉。


(ねぇ、何これ、ねぇ)


 先程の一つ目妖精(悪霊)かと思ったけど、奴はまだ目の端に映っており、しかも中途半端に停止をしている。

 黒い玉の回転ピタッと止まると、ゆっくりと肩の上に着地した。


「ギン、これどうすればいいの?」

「ギンの場所だえ~」


 いつの間にか左肩に移ったギンが黒い玉をペシペシと叩き始める。

 ギンの攻撃(?)にも玉は全く動じなかった。というか、ギンが玉と戯れ合っているようで一瞬和んでしまう。

 起きてきたうどんまでが玉と遊びたいと全体重を脚に絡ませて来る。 やめて! 倒れる。

 うどんの重さに耐えられず、地面に転がってもなお、玉はしっかりと左肩に固定され興奮したうどんに顔をこれでもかという程にペロペロされる。


「臭っ。うどん、やめて!」


 うどんを押し除け立ち上げると、一つ目の妖精は消えていた。

 見失った? 

 あの妖精がこの玉を人の肩につけていったん? 即座に返品したい。

 迷いの森の妖精と関わらないと言う定義をすっかり忘れ、一つ目の妖精を探すために辺りを調べるが何処にも見当たらない。


「えぇぇ。この玉、要らないんですけど!」


 左肩の玉に直接触れ、押したり引っ張ったりして取ろうとするが、1mmも動かない。

 なんなん! この玉!

 玉を睨みつけながらどうしようかとなんでいると、キラリと玉が光る。


「ん? 今、玉の中で何か動いたよね?」


 玉の中で何かの気配がしたので、もう一度玉にそっと触れる。

 触れた手に感じるのは鼓動だろうか? 玉から何度も脈打つ感覚が手に伝わる。


「生きてるん?」

「妖精だえ~」


 あ、これも妖精なんだね。うん。分かってた。


「ギン、これ、取れるの?」

「居座るつもりだえ~」

「ビリビリで取れない?」


 ギンがビリビリをくらわすも玉は無反応。


「カエデに悪意がないだえ~」


 あああああ! そうだった! ベニの結界の膜も悪意がない場合通ることが出来るのだった。ギンの攻撃もベニの分身だし仕様が似ていても不思議ではない。

 待てよ。じゃあ、ガークやマルゲリータにギンの攻撃が効いたって事は少なからず悪意があったってこと?

 くっ、あの2人め……


「害がないからギンが攻撃しても取れないってことだよね? 私の生命が吸われてるとか、明日干からびているとかないよね?」

「だえ?」


 ギンが可愛らしく頭をコテッと傾ける。可愛い。可愛いんだけど不安は積もる。


「今日は、もう疲れた。明日考える」


 取れない玉を気にしてもしょうがない。

 一応たくさん不思議水を飲んで横になる。

 もちろん玉付きのままだ。明日には取れないかな? 


 目を軽く瞑るとそのまま意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る