ユキの薄笑い

 次の日。

 元気に起きる。玉は相変わらず左肩に付着したままだけど、身体が干からびる等の被害は受けてはいない。


 夜中に目が覚めて、再び黒い玉を自分から引き離そうとあれこれ試行錯誤したが無駄な努力だった。

 どう足掻いてもこの妖精は私の肩から動く気はないらしい。

 ギンは、サイドテーブルでいつものベニに貰った栄養の玉に根を張って寝たはずだったが、今朝は移動して黒い玉の上に自分の玉を乗せて根を張らしている。


「ギンちゃん、おはよう」

「おはようだえ~」

「ギンちゃんの玉を黒い玉の妖精とシェアしているの?」

「早く起こすだえ~」


 ——起こす?

 この黒い玉の妖精は寝ている状態なん? ギンの栄養玉で起きるのか? ダメダメ、考えれば考えるほど頭痛がする。

 兎に角、この黒い玉の妖精が起きて肩から移動してくれるのならギンの栄養玉をひとつくらいあげても良いよね?


「ギンちゃんの玉はまだあるから、ひとつあげていい?」

「あげるだえ~」


 新しいギンの栄養玉を出し黒い玉に近づけると、融合するかのように栄養玉が吸い込まれていった。これで……いいん……だよね?


「カエデさん、おはよ…..あのその黒いのは何でしょうか?」

「これね…..」


 ツンツンと黒い玉を突きながらダリアへの返事を考える。

 考えるが、私もこれが何か分からないんですけど!


「妖精?」


 バンズも不安そうに黒い玉を眺める。


「うん。妖精らしんだけど、ギンが言うには害がないらしい。昨晩いきなりくっついてきて取れなくてなった」

「……そうですか。身体は大丈夫ですか?」

「うん。すこぶる元気」


 2人は黒い玉を気にしていたが、ギンが黒い玉の上に座って足をプラプラするのを見て安心したのかそれ以上は黒い玉の妖精の事については触れなかった。  

 朝食を済ませテントの外に出る。


「増えてる……」


 昨日の一つ目の悪霊妖精が2匹に増え、こちらを監視するかのように血走った目が動く。


「カエデさん……」

 

 ダリアの不安な声にバンズが目をギュッと閉じる。


「うん……あれも昨日こっちに近づこうとしたけど途中で消えたんだよね。今日は何故かお友達も連れてきたみたいだけど……」


 無視が一番だろうから、さっさとユキにバンズを乗せる。

 ユキは私の肩の黒い玉をジッと見て匂いを嗅いだが、すぐに興味を失ったかのように溜め息を吐く。


「ユキちゃんはこれ大丈夫だと思う?」

「フッ」

「え? 何、今の? ユキ、笑ったの?」


 ユキの表情はどう見ても呆れ顔。

 ユキに文句混じりで抗議するが、早く乗れと唸られる。


「ユキちゃん、なんか酷くね?」

「ヴュー」


 つべこべ言わずに早く乗れと急かされユキに跨がると、出だしからの全力疾走。やめて。

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