お歌
早朝、うどんの興奮した声で起きる。
横になっていたダリアとバンズも目を開ける。
「うどん、どうしたの?」
テントを開け顔を出し何事かと確認。
「うげぇぇ。朝からキツイって!」
テントの入り口の真ん前では、うどんが自慢顔で咥えてきたハデカラットの死骸が顔につきそうな位置でぶら下がる。
「この魔物、また出たんだ。うどん、始末してくれてありがとう。でも、それ以上は近付けて来なくていいから」
眠気も飛ぶうどんのモーニングコール。やめて。
時刻は6時前だが、外は薄明を迎え始めており薄らと明るくなっていた。
自慢したハデカラットをバリバリと美味しそうに食べるうどんを横目にテント周辺のハデカラットの穴を確認。首を噛まれ絶命している数匹のハデカラットの死骸も穴周辺で発見。テントの真下じゃなくて良かった。
「村で出ていたのより大きいです」
ダリアが丁寧に片付けてくれたテントを渡しながら言う。
「そうなんだ。この辺ではこれ以外の動物はいないの?」
「いますが、迷いの森は元々動物が少ないです」
大した強敵ではないし、ユキたちの餌になるのでこちらはありがたいが、これだけ数が多いのなら大きな巣があるのではないかとの懸念が残る。
地中にある巣、マミーとゴブリンズが頭を過ぎる。もう地中での戦いは絶対に嫌だ。
穴を埋め顔を洗うと、騒がしい声がする。昨晩木に吊るして置いた妖精たちだ。完全に頭から抜けていた。
ダリアとバンズは関わりたくないようなので、朝食の水パンと野菜を渡して妖精の声が届かない離れた場所で食事を楽しんでもらう。念のためうどんを二人に付ける。
木に吊るした妖精は暴れながら敵意を剥き出しにする。
「クソ人間」
「人間、お前の仕業かズルイである。下等なくせに」
「俺たちを離さないと後悔するぞ」
「ミール様に食われろ」
「鼠の餌にしてやる」
「はぁ。気性が荒すぎじゃね?」
水パンに焼いておいた猪肉を挟んだ物を食べながら吊るされた妖精たちを眺める。
どんぐり、草、どんぐり、虫、石、アスパラガス……この世界の妖精、どうなってんの?
一番体格の大きいアスパラガスがリーダーなのか、偉そうに御託を並べる。内容は支離滅裂なので、途中で理解するのを放棄した。
分かったのは、コイツらには親玉の『ミール様』と言う妖精がいる事と何かしら鼠と関わりがある事。他の言い分は理解不能。
暫くごちゃごちゃと色々言っていた妖精も、私が無関心だと気付くとやっと本題に入った。
「俺たちを解放しろ!」
そうだそうだと他の妖精が続く。
始めから朝には解放してあげようと思っていたが生意気な態度が気に食わない。
「ギンちゃん、どう思う?」
「てるてる~」
ギンが昨晩教えたてるてる坊主を自作の歌詞で唄い始める。。
「お前、どこの妖精だ!」
「裏切り者」
「この威圧は古の妖精?」
「あんなチンチクリンが古の妖精な訳ないだろ」
(古の妖精? どう言う意味?)
可愛らしい子供の声でランダムな歌詞を歌うギン。吊るされた妖精たちは意味が分からずまた騒いでいたが、歌の終盤の『首を斬れ! ぐちゃぐちゃだえ~』フレーズが出るとビクッと体を揺らした。
ギンも無慈悲にその物騒な小節だけ無限リピートで歌い続けていたら、やがて妖精たちは静かになった。
やはりギンはベニの分身、敵に容赦がない。
「ようやく静かになったね」
「人間、俺たちを殺す気なのだな。卑怯者」
「やだよ、面倒臭い。それに卑怯者は自分たちじゃん」
妖精の生命力の凄まじさは、昨晩目の当たりにした。ベニは幼い妖精が食われると言っていたので咀嚼などでバラバラになれば、復活出来ずに絶命するのだろう。
「食べられるのはアスパラガスくらいか」
食べると聞いて妖精たちがプルプルと震え出す。いや、食べないよ。お腹壊しそうだし。
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