迷いの森 3

 時刻は21時。

 焚き火が出来ないため、真っ暗の中、ユキの光沢を眺めながら野番をする。

 ダリアとバンズは先にうどんとテントに入って貰った。迷いの森の妖精は執拗に纏わりつく性格でもあるようで、野営中はギンとユキがいる私を避けダリアとバンズを標的にしつこく粘っている。

 今もテントの周りで数匹の妖精が飛びながら出まかせを囁く。


「朝だよ」

「ホブゴブリンの里は全滅したよ」

「お前の親はあの人間に殺されたんだよ」

「あの人間に殺されるよ」


 本当にくだらない害虫妖精だ。ねじ曲がった性格も腹立たしい。


「ギン、よろしく」

「たくさんビリビリだえ~」


 ギンのビリビリがテントの周りで嘘を並べる妖精たちを一気に焼却、次々と力を失い地面に落ちていく。ギンはベニに似て一切の容赦がない。グッドジョブだ。

 落ちたプスプスと煙の上がる黒焦げの妖精を拾う。これは丸太型ではない。木の実? 暗いし黒焦げなのでよく分からない。


「これ、死んでるの?」

「生きてるだえ~」

「えぇぇ。しぶといね~」


 妖精ってもしかして自然消滅するまで死なないの? しぶとさは認めるけど、ここまで黒焦げだから復活まで時間は掛かると思う。


「復活までどれくらい掛かるの?」

「朝には元気だえ~」


 そんなに早く復活するんかい!

 とりあえず、ダリアたちへの度の越えた数々の発言をした事は許せない。悪戯が好きなら偶には嫌がらせを受ける側になって貰おう。ケケケと邪悪な笑いを浮かべながら落ちていた残りの黒焦げになった6匹の妖精を集める。

 黒焦げ妖精を並べ紐で何重にもぐるぐるに巻きに固定して木から垂らす。


「妖精てるてる坊主じゃん」

「てるてる?」

「うん。晴れるようにお願いする時に作るやつだよ」

「明日は晴れるだえ~」


 ギンにてるてる坊主を教えると気に入ったのか何度も『てるてる』とリピートする。

 小腹が空いたのでテント付近に戻り水パンを頬張るとダリアが不思議そうな顔でテントから顔を出す。


「どうしたの?」

「あの、急に静かになったので……」

「ああ、妖精ね。今お仕置き中」

「捕まえたのですか?」

「うん。焦げたのを拾ってあの木から垂らしてる」


 ダリアが近くで見たいと言うので、6匹のてるてる坊主の見学に行く。夜中なのでなんとなく何かがぶら下がっているシルエットが見えるのみ。


「黒いのがそうですか?」

「そうそう。何型の妖精か分かりにくいけど、これでダリアたちに悪戯は出来ないでしょ。いつか紐も切れるだろうし、それまで暫く反省してればいい」

「まさか捕まえられるなんて思っていませんでした」


 迷いの森の妖精は逃げ足が早く、ずる賢いのでなかなか捕まえられないとのこと。

 迷いの森に入ってから魔物や動物を一匹も見ていないので天敵もいなさそうだし、食われる心配もないと思う。あくまで予想だけど。

 てるてる坊主妖精を十分に観察、ダリアも気が済んだのかテントに戻りこちらは夜番に戻る。


 静かになった暗闇でユキを背もたれに星空を見上げる。


「ユキちゃん、見て、あそこの星、ユキっぽくない?」


 ニヤついた顔でユキ見ると、完全に無視されているのが分かる。くっ。ユキめ。悪戯妖精と同等の扱いかよ!



 

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