ギンのお気に入りの本

「いや、それが……」


 コリンが言うには、あの親子はコリンたちより長い期間、賊に囚われていたと言う。

 この町に荷物を届ける途中で賊に襲われたと言う話は母親の方から聞いていたが、荷物の届け先だった親族の店は二人の受け入れを拒否したらしい。


「なんで拒否?」

「事情はあるようだが、親族の方は亡くなった夫側らしい」

「そうなんだ」

「以前の村にも帰る場所はないだろうという事だった。これも何かの縁、私からキャラバンに誘った」


 お宝の件もあったし、都合はいいよね。親子もキャラバンのメンバーと打ち解けたように見えてた。一件落着だね。


「メンバーが増えて良かったね」

「元の一団に戻すのは、まだまだだが……」


 コリンの視線が、水パンを再々お代わりして口いっぱいに頬張るダリアたちに移る。

 ダリアとバンズも視線を感じて食べるのを停止するが、口いっぱいの水パンを咥えた姿はどう見ても小動物にしか見えない。


「カエデさんは、相変わらず子供に懐かれている」

「預かっているだけだけどね」


 そうは見えないけど、普通にこの二人は人間の歳で言えばご老人だから。コリンや私が年下。


「バンズ、付いてるよ」


 バンズの頬に付いた水パンの屑を払い落とす。

 年齢的には年上だけど、中身は子供。

 コリンが微笑みながら尋ねてくる。


「一緒にいる双子は冒険者になったとカイさんに聞きました。二人は元気にしているか?」

「うん。今は、別の冒険者に弟子入りして毎日頑張ってる」

「それは良かった」

「ん。双子の持ち出したお宝も宝石の原石ばっかりだから心配はないよ。あの二人の今後の資金のためにも換金が必要だけどね」


 コリンは、双子の戦利品が宝石の原石だと聞き安堵する。双子が望めば、二人の戦利品の換金もコリンに任せるのが適任かな。

 コリンに私がここを離れた後も双子のことをお願いする。


「街を出る予定か。あの二人には囚われている時も世話になっている。助力を惜しむ予定はない」

「良かった。それで、私の売りたい戦利品なんだけど……今、売ることができないのは理解したけど、正直邪魔なんだよね」

「邪魔……魔道具の容量の限界と言う事だろうか?」

「そうそう」


 これから迷いの森に行く前に色々買い揃えたい。とにかく、戦利品が凄く邪魔。

 水パンに夢中だったギンがジッと見上げてくる。ギンちゃんの所為じゃないと心の声で伝えギンを撫でる。


「もし良ければ、カエデさんの戦利品を拝見しても?」

「うん。じゃあ、出すね」


 魔石や硬貨以外の戦利品をギンから出す。

 武器、装飾品、食器に服。それから……変な形の棒とか、クロッチレスパンティも出てくる。

 変態グッズは子供の目に触れさせないためだけに回収したやつ。

 コリンの表情を確認するが、無表情だ。もしかして、変態グッズも売れるの?

 

「これはまた凄い量で」

「売れそう?」

「確実に。ただ、装飾品は時間が必要ではある」


 賊からの戦利品は、装飾品のように価値ある物なら盗まれた所有者が盗難届を登録をしている場合があるので査定に時間が掛かる。まとめて査定すれば、イゼルの討伐者として商業ギルドに目をつけられる。小出し売り、めんどくさい。

 

「これも売れるの?」


 変な形の棒を振りながらコリンに聞く。


「好事家には好まれるかと」

「そうなんだ。これも所有者の確認をするん?」

「いや……装飾品のように名が彫ってあったり、証拠の肖像画があるわけではないので盗品届は出せない。それに……所有者がいたとしても名乗り出てこないかと」


 これを使っている肖像画、あっても人前には絶対出せない。

 作りは普通に凝ってそうだけど、ただの木だしね。これが金とかだったら価値あるのだろうけど。


「そっか。分かんないよね」

「そうだな」

「じゃ、これは売ってくれる?」

「了解した。残りの戦利品は如何に?」


 素人のカエデちゃんが売り捌くよりコリンの方が上手く誤魔化しながら捌ける。元よりお願いする予定だった。


「コリンに預ける。適当な時に売って」


 コリンは少し驚いていたが、必ず良い価格で売ると約束される。

 ひとつひとつの種類と特徴を記した戦利品の預かり証を作成。これが凄く時間の掛かる作業だった。


「これで戦利品は全部だろうか?」


 ギンに確認すると『まだあるだえ~』と例の古いエロ本を出してくる。

 うん。これはねギンちゃんのお宝だから、今は要らないから。


「こ、これは!」


 ほら、コリンが驚いてるじゃん。


「あ、これは——」

「なんと巧妙な絵! このような品は見たことがない。素晴らしい。これも戦利品だったのか? このような絵ならば盗難届が出ているはずだ」


 え……ただの古いエロ本だって!

 戦利品ではないと説明したが、ぜひ売りたいとコリンが嘆願するのでエロ本のページを一枚だけ破り渡す。

 一応、ギンちゃんが気に入っているので全部は渡せない。


 外を見ればいつのまにか夕方。ダリアとバンズは、数時間前にソファーの上でお休みの国へ出発していた。

 預かり証の二枚目の書類を作成しながら、コリンに冒険者タグの提示をお願いされる。

 

「冒険者タグを確認します」

「ん? なんで?」


 売れ次第、お金は冒険者ギルドの私の口座に入れるそうだ。そんな口座知らないけど。


「開設されてないのなら、ギルドで手続きをお願いします」


 冒険者ギルドの口座開設はオプション? 銀行のような感じ? マルゲリータ、ちょいちょい説明不足じゃね?

 コリンに冒険者タグを渡すと、書類を書いていた手を止め目を見開く。


「ぎ、銀級?」

「うん。いろいろで昇級しまくったんだよね」

「そ、そうか……」


 あれ? 引いてる?

 気持ちは分かる。私も引いてる。


 二枚の預かり証の最後に双方の署名後、血判で割印。徹底している。

 書類関係終了。ダリアたちを起こし、コリンたちの借家から宿に戻る。


 夕食は、薬草採取から戻ってきた双子と共にイーサンも交えて6人で済ませる。夕食のビールが疲れた身体に効いたのか、フラフラしながらベッドへダイブして即寝する。













***

本日、書籍発売です。

よろしくお願いいたします。

 


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