口座開設
朝、目覚めは良い。
双子はまだ起きる気配はしない。ダリアとバンズは目を瞑っているが……
「おはよう」
「カエデさん、おはようございます」
パチリと目を開けるダリア。
うん。寝たふり上手くなってきたね。
バンズは演技派なのか、未だに腹を見せながらベッドに横たわる。ホブゴブリンの殆どが睡眠を取らないと言う事を事前に知らなければ、寝相の悪い子供にしか見えない。
バンズの演技の解除法は分かっている。
囁くような声で唱える。
「黒芋バター」
「どこ?」
バンズが垂直に起き上がりキョロキョロと辺りを見回す。幽体離脱ごっこができそう。
「おはようバンズ。朝食にお芋作ろうか」
「うん!!」
双子は、昨日の薬草採取でクタクタのようだ。今日は休みなのでゴロゴロするとベッドから出てこなかったので、ダリアとバンズの3人で朝食をする。
朝食を済ませ、冒険者ギルドでコリンの入金用の口座を開設しに行く。
受付のお姉さんに口座の話をする前に、先に断りを入れられる。
「本日、ギルド長はいらっしゃいませんが……」
「会いにきてないし……」
何このマルガリータとセットメニュー的な対応。確かに来る度に執務室に連行されてるけどさ!
受付のお姉さんに口座の開設をお願いする。
「口座ですか? 畏まりました。少々お待ちください」
口座開設の書類を持ってきた受付のお姉さんにタグの提示を求められる。
「はい。タグ」
「お預かりします」
口座を開けるのは銅級以上の冒険者で口座開設費用は銀貨5枚。
「結構なお値段じゃん」
「申し訳ございません。維持費の関係で、こちらの負担額となっております」
一度口座を開設すれば、一生使用可能という事らしい。高額な取引や、今回のコリンの入金には便利だけど……普通の銅級や銀級には無駄な口座だね。道理で冒険者登録の際に口座の説明とかなかったんだ。
「魔力登録をお願いします」
「うっ」
出たよ。冒険者登録でも使われた、あのごちゃごちゃと赤い魔石を含む魔石が散りばめられたマジカルな板が。
板に手を置くのを渋っていると、受付のお姉さんに口座引き落としは魔力の確認をするので、登録は避けられないと説明される。
カエデちゃんはマジックパワーないんだけど、前回も大丈夫だったから大丈夫だよね?
赤い魔石を避け板に手を置くとほんのり光った。
「光った……」
「え? はい。光が落ち着いたら登録完了です」
板が光ったことに感動していたが、受付の姉さんは何事もなかったかのように淡々と事務的に口座の開設を続ける。こっちの板は光る仕様なのか?
「以上で口座の開設が終了しました。大陸なら国内外、どの冒険者ギルドでも口座の使用は可能です。引き出しはご自身の魔力でしか出来ませんのでご注意ください。ご質問はございますでしょうか?」
大陸中ってまたハイテクな……どれくらい広いか知らないし。あれ? 今いる国の名前はなんだろう? 王様はハインリヒ2世だけど……この質問は今更な気がするのでいいや。
一番気になる質問をする。
「うん。私がいなくなったりしたら、入れているお金はどうなるの?」
「死亡確認された口座は残金を近親者に配布、近親者がいない場合は冒険者ギルドが受取人になります。一定期間アクティビティがない口座で生存が未確認である場合は、50年ほど口座はそのままになります」
意外と徹底してるじゃん。
私が日本に帰ったり、考えたくないけどこの世界で死んでしまったら口座のお金は双子が受け取るよう近親者リストに加えた。
双子以外、他にこの世界でお金を譲りたい人いないしね。ギルドが受取人ってのもなんだが釈然としない。
口座開設も無事済んだので、ダリアたちと市場に向かう。
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