マルゲリータとの話 2

「次に昇級の話ですが……407匹で単純に計算したら1200ポイント以上あるのですが、銀級でゴブリンのポイントは加算しないのですよ」

「そうなんですか」

「大量のゴブリンを一人で討伐された冒険者は初めてだから、このような問題は以前はありませんでしたが。長く生きていると面白いことが色々あるものね」


 マルゲリータが何歳かなんて怖くて聞けない。

 カエデちゃん、昇級に興味はない。銀級になりたいのは、依頼を短期間で常に受けないと冒険者の資格が失効することを避けたいだけ。

 マルゲリータが言うには、1200ポイント以上あれば、単純計算だと銀の上まで昇級するらしい。

 ただ、問題は銀級になるとゴブリンのポイントは加算されないそうだ。銀級以上がポイント稼ぎのために弱い魔物を乱獲をしないよう、銅級や鉄級への救済だと説明を受けた。


「銀級になれればいいよ」

「カエデさんは、本当に欲がないのですね」

「銀級は、暫く依頼受けなくてもいいんでしょ?」

「……まぁ、そうですね。6ヶ月で失効しますが……」


 6ヶ月! 十分長い。これで、別の街にも旅に出発可能。どこに行くとか全然決めてないけど。

 ダリアとバンズを迷いの森に送ったら、旅の準備だね。ここでやることはもう少しあるけど、それが終わったら出発しよう。双子も無事イーサンになすりつけたし。

 別れは、少し寂しいけど、いつまでもこの町にいても日本には帰れそうもない。

 

 マルゲリータが、助手に私の冒険者タグを銅級のから銀級に替えるよう指示を出す。

 助手に銅級のタグを渡し、この隙に部屋を一緒に出ようとしたが、マルゲリータに呼び止められる。


「どこへ行こうとしているのですか? お話は終わっていませんよ」

「そ、そうですか」


 はっきり言おう。マルゲリータ苦手。優雅なんだけど……雰囲気は母親で喋り方はお茶の先生、威圧感は刑事でギラつきはカモを見つけた営業。その全て混じったような人だ。


「カエデさん、お茶は好きかしら?」

「好きだけど」

「それじゃ、お茶を飲みながらお話ししましょう」

「いいけど……」


 マルゲリータが淹れたお茶を受けとり、ひと口飲む。普通に美味い。何茶だろ?


「美味しいです」

「私の調合したお茶ですよ」


 その後、無言が続く。

 所作よくマルゲリータがお茶を飲むが、一言も発しない。『お話ししましょう』はどこいった?

 サイレントお茶会の時間。ねぇ? なんの時間これ? ねぇ?

 少しして、やっと口を開いたマルゲリータ。


「カエデさんにお願いしたい依頼があります」

「えぇぇ」

「ふふ。6ヶ月間、依頼を受けないつもりだったでしょう?」

「うん。そうだったけど。ダメだった?」

「ダメですよ。宝の持ち腐れでしょう?」


 マルゲリータのギラ顔マックスじゃん。怖い。

 こっそり町から夜逃げコースかな。

 マルゲリータがニッコリと微笑む。


「逃げないでくださいね」

「うっ。一応、内容だけ聞くけど、受けるかどうかはその後に決めるから」


 

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