お誘い
ガークへの報告後、件のゴブリン巣の場所について別のギルド員に報告してたら、もう夕方じゃん!
「時間過ぎるの早っ!」
「カエデさん、あと一つの項目の質問があります」
この人は、ギルド員のステイシー。受付で何度か見たことあるけど話すのは初めて。淡々と質問をしているが、詳細を細部まで、何度も似た質問を聞いてくるので時間が掛かっている。カエデちゃんのハングリー音がそろそろ鳴りそう。
ステイシーの声が子守唄のように響き、うつらうつらする。
「カエデさん、次はこちらです。カエデさん?」
「ん。なに?」
「マミーとおっしゃる雌の姿絵をこちらにお願いします」
「えぇぇ」
そう言い残し、ペンと紙を置いて退室するステイシー。
いや、絵心ないって!
一応、頑張って描いてみたけど、激レア虫のナナフシにしか見えない。頭の中では、コモドドラゴンを描いてるんだけど……結果は、鉛筆に脚が生えたみたいな生物になってしまった。
ダリアが横から絵を見て驚いたように口を塞ぐ。
「カエデさん……」
「うん。ダリア、分かってる」
「大丈夫です! バンズ!」
「うん。僕、描けるよ」
バンズが巧みにペンを動かす。紙の上には、徐々に穴の中で見たリアルなコモドドラゴンが出来上がる。
「何これ。すごすぎじゃね? 3Dじゃん。飛び出しそうなんだけど」
「バンズは、昔から絵が得意なんです!」
嬉しそうにダリアが言う。上手いどころじゃないと思う。自分の鉛筆虫と比較。即座に自分の絵をクシャッと丸める。
「ギンが欲しいだえ~」
「え? ギンちゃん、これ欲しいの?」
何故か私の駄作をギンが欲しがったので渡すと、スッと消えていった。
ギン、人前では出さないでね……。
ドアが開きステイシーが戻ってくる。
「カエデさん! これは、なんですか!?」
「マミーです」
「カエデさんが、描いたのですか?」
「いや——」
どっちが正解? バンズが描いたって言うと、なんでバンズがマミーのことを知ってるのかと言う話になる。私が描いたって嘘をついても面倒臭い事になりそう。
「僕がカエデの話を聞いて描いたよ」
ナイスバンズ!
ステイシーは、若干訝しい顔をしたが、バンズが目の前で描いた黒芋を見て納得をした。上手いけどさ、絵のチョイス……。
「カエデさん、地中にいたゴブリンの雌はこちらで間違いありませんか?」
「これです」
「分かりました。以上でゴブリンの巣の質問を終了します。長い時間ありがとうございました」
寝ていたユキとうどんを起こし部屋を出ると、お腹が恐ろしい音を立て鳴る。やっぱりお昼に肉を抜いたからかな。肉が食べたい。
一階に下りると、受付辺りでガークが談笑中。こちらに気付くと、談笑相手と別れ、不思議そうな顔で問う。
「お前たち、まだいたのか?」
「まだいたかじゃないし! ずっと質問責めだったし! お腹すいたし!」
「分かった。分かったから、叫ぶな」
グヲォーとお腹が鳴ると、続けてダリアとバンズのお腹も鳴った。
軽く笑いながらガークが尋ねてくる。
「夕食は、どうすんだ?」
「多分、宿の厨房を借りて作るかな」
「食堂は、たぶん今日は使えないぞ」
「え? なんで?」
「今日、銅級の冒険者パーティが銀級に昇格したんだよ。ギルドの食堂は、祝いで忙しいぞ」
えぇぇ。
だから昼間、厨房でいろいろ蒸し蒸しと準備してたん? どうしよう。宿以外にも食堂はあるけど、まだ利用したことないんだよね。まして、ベジタリアンの食事なんてないだろうし。
きゅうりディナーか? キューカンバーデナーか!?
「詫びも込めて家で食って行くか? 家にも野菜があるが、野菜は持ってんだろ?」
ガークの家に双子も込みで誘われる。とてもありがたいけど——
「ガークが作るん?」
「アホ言え。作るのは俺の妻だ」
「え? 妻?」
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