あっちのゴブリン、こっちのゴブリン
穴の中に地滑りして落ちた先は、ゴブリンの上だった。うん。知ってた。
「ギンちゃん! 大丈夫?」
「ギン、大丈夫だえ~」
ギンは、なんともなさそうだ。良かった。
穴の入り口を見上げると、ユキとうどんがこちらを覗き込んでいた。絶対、見捨てて逃げたな。
穴の左右には、トンネル通路が続いている。ゴブリンが何匹いるか分からない狭い空間なんかさっさと出よう。
「ここ、登れるかな?」
土が柔らかく、杭は入らないだろう。一先ず、ゴブリンの耳を回収する。
「えーと。確か右耳だよね?」
「だえ~」
短剣を取り出し耳を削ぐ。地味に辛い作業。ゴブリンの耳は、思っていたより……ふにゃふにゃしている。こういうお手玉あったよね。
ゴブリンの死骸を観察するが、やはりログハウス周辺の奴らより小さい。こちらの方が、劣化体なのかもしれない。
油断は禁物だ。森で遭遇したゴブリンライダーは、それなりに強い個体だった。
転がっていたゴブリンの右耳を全て回収。さて、どうやってこの穴から出ようか。
入り口を見つめていたら、ユキとうどんがスイスイと下りてくる。そうだった。アルプスのヤギのような二匹だった。
ユキが背中を見せてくる。そうか。ユキに乗って上がれば楽勝だ。
ユキの背中にしがみつこうとした瞬間、トンネル通路の奥から微かに人の叫び声のような音がした。
構わずユキに股がる。
「ユキちゃん、上までよろしく」
「ヴゥー」
「多分、気のせいだって」
うんうん。気のせい。ユキ! 早く上がって!
トンネルの奥からまた声がする。今度は、はっきりと聞こえる。人の声。
ユキから降りる。
「ギンちゃん、キャンプチェア出して」
「だえ!」
キャンプチェアに座り、顔をタオルで拭きながらため息を吐く。
「また、この役割……に心理的な葛藤」
八割くらい無視して帰りたいが、二割の偽善者がうるさい。ゴブリンの耳集めはやりたいが、こんな穴で? トンネルがどれほど続いているかも分からない。声だってエコー場所も断定できない。
やめろやめろやめろ。
「ねぇ。ゴブリンってなんかお宝持ってると思う?」
持っている訳がない。奴らが持っているのは、歯石だけ。
悩んでいる間に、奥から無数の何かが走ってくる音がする。
こちらに向かってくるのは、ゴブリン。ですよね。
ん? えーと、よく見るとゴブリンがゴブリンを追いかけているのか? なんだこれ?
どうやら二匹のゴブリンが、多数のゴブリンに追いかけられているようだ。
逃げている二匹は、他のと種類が違う? 緑だがより人間に近く、ちゃんと服を着ている。幼い兄弟のようだ。
「カエデ~」
ギンがソワソワして髪を掴んでくる。ギンが、彼らを助けて欲しそうなので、助けることにする。
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