爽やかジムトレーナーの依存

「きゅうりは、食い終わったか?」


 イーサンが呆れたように尋ねてくる。

 双子も模擬試合をやってみたいようで、これからガークと一緒に他の新人冒険者も集め軽く模擬試合をするそうだ。


「楽しそうじゃん。でも、試合場、ガークが壊したよ。あれって弁償しなくていいの?」

「大丈夫だ。見てみろ」


 ガークが指差す練習場を見ると、ビビ割れはなく元通りになっていた。


「えぇぇ。どういう事?」

「練習場は、特別な鉱石でできている。魔法の的もそうだ」

「じゃあ、壊しても弁償しなくていいんだね」

「藁人形は別だ。あれは、ただの藁人形だ」


 ちょいちょいハイテク要素出してくんのに、ローテクは恐ろしいほどローテク。トイレにもその技術割けば良いのに。

 あの鉱石、スパキラ剣で斬れるのだろうか? 万が一壊れた場合、弁償代が凄く高そうなのでやんないけど。

 ガークとイーサンが、双子と新人たちを集め始める。

 そういえば、私も新人だ。手を挙げようとするが——


「カエデ、お前はダメだ。怪我人が出る」


 ガークに出場を禁止される。

 仕方ないので、シーラと共に見学席からガークたちを観察する。


「ねぇ。貴女なんでしょう? イーサンのやる気を出させたの」

「弟子パワーの事?」


 弟子パワーというワードがウケたのか、シーラが大声で笑う。


「弟子パワーもそうだけど、あんなに毎日酔い潰れていたのに……貴女、彼に何をしたのかしら? 是非、聞きたいわ」


 何をしたっていわれても……。シーラは、イーサンが怪我した以降、酒に溺れるようになったと説明する。誰が何をいっても毎晩酒を飲んでいたらしい。量もコントロールできず、道で寝ている事もあったという。確かに、仕事中も寝てたよね。それってまるでアル中——


「あ」

「どうしたの?」


 不思議水じゃん!

 絶対あれの所為だよ。だっておかしいじゃん! 十日前まで酔っ払って床に転げてた人間が、今は何よ。あの爽やかジムトレーナーの笑顔に『みんなでやればできるぜ!』みたいなスタンス。

 この十日でイーサンの性格がコロコロ変わって、多重人格者のようだった。

 不思議水、恐ろしい子だわ。


「きっと腕が治って、元気が出たんじゃない?」

「それに関しても、貴女なの? どんな治療士に見せてもお手上げだったのに、貴女何をしたのかしら? 私は、元の彼に戻って嬉しいけど——」


 シーラ、勘ぐってるな。くっ。ピピンまでこっちを見てやがる。

 でも、あれが本来のイーサンなら、双子を預ける人として適任。アル中の事を気付いてたら、イーサンは選択肢にはなかったかも。


 その後、シーラの質問攻撃を無事逃げ切り、模擬試合の終わった双子と宿に戻った。

 

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