勝敗

 ガークとイーサンの間で軽く言葉が交わされ、二人が剣を構える。どちらとも、二人の体格に合わせたロングソードで重そうだが、二人はそんな素振りは見せない。

 ガークは、手元を頭上に掲げ構えている。よく、あんなに重そうな剣を頭上に持ってこれるよ。

 イーサンの構えは、剣先を下げている。一見頭上がガラ空きのように見えるが……あの構えは、日本で見た事がある。剣道だっけ? 時代劇だっけ?

 ミロが不安そうに尋ねてくる。


「あれじゃ、やっぱりイーサンが不利だと思う」

「んー。どうだろうね」


 どうやら、ガークの構えは基本型のようで、攻撃も防御も双方に備えた型。彼の性格を表している構えだ。

 対してイーサンは、相手を誘い込むような罠を仕掛けているような構えだ。防御はせず勝ちにいく。これは、イーサンの性格なのかもしれない。


 シーラが赤い布を下ろすと最初に攻撃したのはガーク。重い剣がイーサンに降りかかる。

 イーサンは軽く後方へステップ、ガークの剣が地面に落ち……あれは、練習場にヒビが入ったのかな? ガークあれ弁償物じゃね?


「ガーク、相変わらず、すげぇパワーだな」

「イーサン、お前は相変わらず、性格が悪いな」


 二人はなんだか楽しそう。

 ギンにきゅうりを出してもらう。ボリボリときゅうりを食べると、距離があるのにガークに睨まれた気がした。ガーク! 集中しないと!


 次は、イーサンが右から剣を振りガークが受け止める。剣のぶつかる摩擦音が練習場に響く。イーサンは、距離を詰めガークの右肘を殴るが、そのままガークの頭突きを食う。二人がお互いから距離を取る。

 ガークやっぱり顔面凶器だよ。


 二人の動きは速い。ギャラリーも一瞬の事で動きについて行けていない者もいる。

 双子は目をキラキラさせて見ているので、楽しんでいるのだろう。特に、ミラのイーサンを見る目が変わったような気がする。


 再びイーサンが攻撃、ガークがイーサンの剣を回しながら巻き込み、互いの剣先が上を向き柄がぶつかり合う。ガークがイーサンを押しのけよろめいたイーサンに切り掛かったが、どうやらフェイントのようで一気にイーサンがガークの懐に入り剣を首に突きつける。


「それまで!」


 シーラの声が勝負の終わりを告げる。ギャラリーは静かなまま、ミラが勝敗を確かめる。


「イーサンが勝ったの?」

「勝負は引き分けだよ」


 ガークの動きが全く見えなかったが、イーサンの首にもまたガークの剣が突きつけられている。

 なかなか面白い勝負だった。

 ギャラリーからも、大きな声援が聞こえる。みんな良かったね。お金を無駄にしないで。


「どうだった?」

「「凄かった!!」」


 双子が、イーサンとガークの元に向かうとシーラがギャラリーの冒険者から金を回収していた。シーラと目が合うとウインクされた。どうやら、引き分けに賭け一人勝ちしたようだ。その手があったね。


「二人ともお疲れ様」


 ガークとイーサンに労いの言葉を掛ける。ガークにジト目で見られ苦言をいわれる。


「カエデ、お前! 人が真剣勝負してっときに、きゅうり食ってただろ!」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る