ガークとイーサン

 双子の剣の講習が遂に終了した。


「「終わったー」」

「二人ともお疲れ様」


 双子の剣技を見せてもらう。素人目線でも、確かに以前よりしっかりとした構えと綺麗な型に仕上がっている。

 ガークは、なかなか優秀な講師のようだ。

 講習は、剣の基本が中心だったらしい。剣の腕前は、これからの経験でつけて行く。


 イーサンは、あれから毎日水を飲み続けた。本人が、ほぼ怪我以前の状態に戻ったといったので、双子と約束していた剣技の披露してもらう事になった。

 緊張した面持ちのイーサンが腰に剣をつけ、ギルドの地下練習場にやってくる。


「剣、買い戻せたんだね」

「ああ。売れ残ってたのが幸いだった」


 イーサンの顔付きは、数日の間に以前とは全くの別人になっている。あの二日酔い怠惰野郎はどこにもいない。

 本日、イーサンの相手はガークだ。

 ガークは、始めイーサンの怪我が治った事を訝しんで勝負を拒んだ。剣の勝負をすれば、男と勘違いしたのを二度と持ち出さないと脅……お願いしたら渋々承諾した。


「イーサン、お前のそんな表情は、なんだか久しぶりだな」

「ガーク、今日はよろしくな」


 二人は握手後、練習場で向かい合う。

 いつの間にか、どこかで勝負を聞きつけたであろう冒険者たちのギャラリーができていた。

 隣に座ったミラとミロも真剣な表情で二人の勝負を見守る。

 肩の上のギンもブローチを盾にしながら、小枝を振り回している。

 ユキたちは興味なさそうに、横になって欠伸あくびをしている。


「カエデは、どっちが勝つと思う?」

「ガークかな」


 ミラの質問に即答する。

 ガークもイーサンも元銀級。現役時代は双方同じくらい強かったとシーラに聞いた。

 どちらの剣の腕前も大して知らないが、イーサンはブランクがある。その点、ガークは毎日のように剣に触れている。

 そういえば、ガークはなんで冒険者辞めたんだろう? 怪我などしてなさそうだし、その辺の冒険者より断然優秀で強いはず。

 冒険者ギルドのほうが安定した職業であるのは間違いないけどね。

 ギャラリーの冒険者たちが、勝負の行方で賭けを始める。好きだな、賭け事。こちらの文化なのかもしれない。


「やっぱり、ガークさんだろ」

「お前は、現役時代のイーサンを知らないからな。あの人は強いぞ」

「でも、怪我してんだろ?」

「ああ。それが、この前練習してんの見たんだが、ありゃ治ったとしか思えない剣捌きだったぞ。俺は、イーサンに銅貨三枚だな」


 賭け事に参加するかと聞かれたが、断った。不確かな事に金は賭けない。


「「カエデ、勝負が始まるよ」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る