鳥と蛇

 オスカーが咳払いをし、話題を変える。


「カエデは、ロワーにとどまるのか?」

「その予定。冒険者の階級が上がらない限り、長旅が出来なさそうだし」

「身分証か? 後ろ盾になるぞ。恩人への礼だ」


 オスカーの好意はありがたいんだけど、なんだろう。面倒くさい予感がする。オスカーをまじまじと見つめる。

 大体、オスカーが誰なのかも知らない。悪い人でないとは分かる。でも、後ろ盾って関係でもない。恩は別の形で貰おう。


「オスカー、ありがたいけどお断りします」

「何故だ?」

「なんとなく」

「はは。まさか断られるとは。分かった。だが、困った時は頼れ。これを渡しておく」


 オスカーが、鳥の装飾された短剣を渡してくる。これは、賊に奪われていた短剣か。


「この短剣は?」

「ああ。困った事があればこれを見せよ」


 オスカーはそういうと、お茶を優雅に飲んだ。


「え? 説明終わり?」


 ブハッとオスカーが茶を吹く。

 いや、だって全然分かんないよ。


「グリフォンの紋章といえば、どこの家門かわかるだろう」

「この鳥、グリフォン……」


 短剣を左右から見る。確かに後ろ足は鳥じゃない。でも他、全部鳥だって。

 今そこは、重要ではない。きっと誰でも知っている家門なんだよね?


「本当に知らんのか?」

「ほら、別世界から転移してきたから……」


 オスカーから睨まれる。ごめんって。


「ラシャール公爵家だ。俺は、オスカルゴ。ラシャール公爵家三男だ」

「そうなんだ。カエデ。セト家長女です」


 やっとで名乗ったかと思えば、なんか凄いお坊っちゃんで……。思わず、変に同じように名乗ってしまう。


「セト家とは?」

「一般人ですよ」

「フェルナンドから、商家の出ではないかと聞いたが、そうなのか」

「違います。会社員です」


 オスカーに会社員の説明を求められたので、要約して教えた。


「商人だな」

「あ、はい。商人です」


 いいよ。もう、商人で!

 短剣は使うか分からないけど、一応受け取っておく。


「あ。そういえば、書類と一緒に装飾された短剣があったよ」

「何? どんなのだ」


 書類と共にあった蛇の装飾の短剣をギンに出して貰い渡す。短剣を受け取ったオスカーの顔がすぐさま険しくなり、エディとリーヤを退室させる。


「これが、あそこにあったのか?」

「うん」

「他にこれを見た者は?」

「……なんで?」

「その者も、危険に巻き込まれるかもしれないからだ」


 あの時、短剣を渡してきたのはカイだ。でも、装飾の内容まで覚えてないと思うけどね。


「もう一人いますが、装飾まで覚えてないと思う」

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