偽物

「本当か?」

「短剣の事すら忘れてると思う」


 カイは今、色ボケ中だから。全身そこに集中してる。カイに幸あれ。心の中で合掌する。


「本当に他の者には見せていないのか?」

「見せてない」

「本当か?」

「……しつこいよ」


 オスカーが、椅子に座り短剣を眺める。何かに気づいたのか、短剣を何度もチェックする。

 オスカーが、蛇の装飾をカリカリと強く引っ掻く。傷のついた部分から、銅が露わになる。


「偽物か……」

「めっき?」

「そうだな。それに、蛇も一匹で違和感が——」

「蛇がなに?」

「いや、なんでもない。安心しろ。これは、偽物だ」


 えええ。偽物なら価値ないじゃん! 付いている宝石も偽物かな? カリカリと掻いていたたポロリと宝石が取れる。


「あ」

「一応、証拠品だ。壊すのはやめてくれ。この分も支払いはする」

「ううん。いいよ」


 証拠品の対価を払うといわれたけど、流石に偽物を売る事はカエデちゃんポリシーに反する。

 オスカーから貰った短剣をカリカリと引っ掻く。


「そちらは、偽物ではない……」

「いや、比較してるだけだよ」


 オスカーの短剣は、引っ掻いても取れない。本物の金だ。

 しかし、あの賊……なんの為に偽物を大事に金庫に入れてたんだ? 謎。

 それに、一匹ではない蛇。多頭の蛇には、心当たりがある。でも、オスカーの表情があんなに険しくなったから……碌な事じゃないだろうな。出すのはやめよう。あれも偽物の可能性があるよね? あるよね?


「俺は、長期の旅が出来るまでロワーに留まる予定だ」

「そうなんだ。じゃあ、また遊びくるね」

「はは。そうしてくれ」


 オスカーの足を見る。靴を履いているので、親指は見えない。


「親指、大丈夫?」

うずくが、問題ない。これだけで済んだ事に感謝している」


 義足をあつらえるから、問題はないとオスカーはいうが……今後のリハビリが大変であるだろうと予想する。

 特に剣を振るうとなったら、年単位でのリハビリが必要なのでは?


 オスカーが、また辛そうに咳込む。必要な話は終わったので、今日はもう帰ろう。不思議水を多めに置いて退室する。


 従者に、ユキたちとガークのいる屋敷の表に案内される。外からは、大勢の声が聞こえる。

 表にいたフェルナンドが声を掛けてくる。


「失礼を働かなかったか?」

「大丈夫だと思います」

「そうか。して、あのフェンリル。いつまでボールを投げれば気が済むのだ?」

「えーと……多分百回くらい?」

「とうに百、超えておるぞ」


 フェルナンドの指差された方を見ると、ガークが座り込んでいて、門番たちがうどんとボール投げ遊びをしていた。

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